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「特養ホーム内部告発訴訟 高裁判決を破棄」内部告発者
に対する訴え提起の正当性
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第3 反訴請求について
第一審判決中の相手方Y1ら敗訴部分を敢えて取り消して,不法行為の成立を認めた原審の判断には,最高裁判所の判断がない解釈問題について,誤った法令解釈をした違法があることに加え,最高裁判所判例に違反し,法令の解釈を誤った違法がある。その理由は,次のとおりである。
1 原審が,申立人による本訴提起行為を訴えの提起が違法な行為として違法であると判断した点について
(1) 原審は,《控訴人による本訴提起行為((1)のアの(ク)及び(2)のアの(カ))は,被控訴人Y1及び同Y1の情報提供行為が虚偽のものであることを前提とするものであるところ,前記認定のとおり,その情報提供行為はいずれも主たる部分において真実なものと認められ,また,前記認定したところによれば,控訴人は,Bからのより詳しい事情聴取等当然行うべき調査を行わず,Bの虐待に関する複数の供述等を合理的な根拠もなく虚偽と決めつけて,本訴提起に及んでおり,本訴は,権利の存在につきわずかな調査をしさえすれば理由のないことを知り得たにもかかわらずこれを怠って提起されたものということができ,違法性が認められる。》と判断した。
(2) しかしながら,最高裁判所判例は,訴えの提起が不法行為となる場合の要件について,《民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において,右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が,事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。》と判示しているところ,その前提として,《法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは,法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから,裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず,不法行為の成否を判断するにあたっては,いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされる》と述べ,また,《けだし,訴えを提起する際に,提訴者において,自己の主張しようとする権利等の事実的,法律的根拠につき,高度の調査,検討が要請されるものと解するならば,裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でないからである。》と理由付けとしており(最高裁判所第三小法廷昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁),訴えの提起が違法な行為にあたる場合を制限的に解していることは明らかである。
現に,上記判決は,前訴が,相手方を土地の売主,土地の測量の依頼者であると誤信して提起されたものであるところ,真の売主,依頼者を客観的方法で一義的に確定するこが可能である事案に対するものであるが,それでも,《・・・・・・,いまだ通常人であれば容易に知りえたともいえないので,・・・・・・更に事実を確認しなかったからといって,上告人のした前訴の提起が裁判制殿趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとはいえず・・・・・・》などと判断して,不法行為の成立を否定して,請求を棄却した。
これに対し,本件は,申立人としては,客観的痕跡がなく,目撃供述と被告発者の供述が相対立している状況では,申立人としては,少なくとも現場で全般的,個別的な諸々の関わりを持つものとしては,軽視できない個人面談での供述内容,作成メモ,投書の記載内容に接し,これ以上の調査を進めたとしても,原審の判断と同一の結論を真実と確定するなど到底できない状況にあった。
前記第2の2(4)のとおり,存在する物的,人的資料にほとんど無制限に直接接することができ,時間的な制約もなく,調査を実施した札幌市でさえ,《個別の具体的事例について,行為者やその行為を証拠等により特定するには至らなかった》という結果を出さざるを得かったのである。
そうであるにもかかわらず,申立人の訴え提起を,《・・・・・・権利の存在につきわずかな調査をしさえすれば理由のないことを知り得た》などと説示するのは,申立人が,突如起こった虐待疑惑の中で右往左往しながら,素人で稚拙ながらも何とか真実を確認しようと努力してきたことに一顧だにせずに無視するものにほかならず,独断的な判断というほかない。
高等裁判所民事部が2箇部しかない高裁管内においては,上記のような判断が,裁判官,殊に裁判長の考え・個性によって安易にされれば,管内での控訴提起が萎縮抑制され,裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となりかねない。
なお,原審で取り調べられたA施設長の証言中には,確かに思い込み甚だしいと評価されてもやむを得ないものもあるが,それは,事実そのものではなく,判断過程,意見に関わる部分であって,原判決中に,敢えてA施設長の供述を基に縷々事実認定をする一項を設けて,申立人に不利な結論を導く材料とするまでもないと考えられ,申立人の立場としては,A施設長の証言態度に対する過剰反応と思わざるを得ない。
(3) いずれにしても,以上のとおり,原審の前記判断には,前記最高裁判例に違反して不法行為の成立を認めるものであって,法令の解釈適用を誤った違法があることは明らかである。
(参考)
理 由 要 旨
1 本訴請求について
暴行行為の存在を主張して不法行為に基づく損害賠償を求める事案において,暴行行為を目撃したとの供述があるものの,行為者とされた者は暴行行為を行ったことを明確に否定しているところ,目撃証言を裏付ける客観的な証拠が存在せず,相矛盾する証拠のなかからいずれを採用し,いずれを捨象するかという判断において,特に慎重な吟味をしなければならないのに,目撃供述の信用性の確実性を認めることができないにもかかわらず,その信用性を認め,当該供述だけで暴行行為の存在を認めるほか,抽象的内容で伝聞供述に過大な価値を認めるなどして,当該供述だけで暴行行為の存在を認め,又は補強するための証拠として採用して判断した原判決には,最高裁判所判例(最高裁判所第二小法廷昭和50年10月24日・民集29巻9号417頁,同第三小法廷平成9年2月25日民集51巻2号502頁,同第三小法廷平成12年7月18日判決・判時1724号29頁)に違反し,採証法則に反する違法がある(なお,最高裁判所第三小法廷平成18年11月14日判決・判例タイムズ1230号88頁)。
加えて,原審は,控訴審で初めて提出した証拠を時機に後れた攻撃防御方法として直ちに却下したことは,最高裁判所判例(最高裁判所第三小法廷昭和30年4月5日・民集9巻4号439頁)に違反した違法がある。
2 反訴請求について
反訴請求についても,原審の判断には,不法行為に当たる行為の認定について,上記1と同様の採証法則に反する違法があるばかりか,各認定行為を違法行為であると判断するについて,未だ施行されていなかったいわゆる高齢者虐待防止法の立法趣旨を援用し,内部通報者を保護し,内部通報による不利益を課さない義務があるとし,これに違反したという判断を示した点について,最高裁判所の判断がない解釈問題について,誤った法令解釈をした違法があることに加え,本訴請求が,訴えの提起に違法性が認められる場合にあたるとした点について,最高裁判所判例(最高裁判所第三小法廷昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁)に違反して判断した違法がある。