「勝てます」と言えた案件で、私は立退き交渉を止めた
立退き交渉は、条件次第では「法的には勝てる」案件になります。
しかし、勝つことがその人の人生を壊すなら、
弁護士は本当にその一手を選ぶべきなのでしょうか。
この事例は、勝てる状況で、あえて勝ちに行かなかった判断についての記録です。
立退き交渉の相談でした。
相手方から提示されている条件は強硬で、
交渉がまとまらなければ訴訟も視野に入る状況です。
資料を確認すれば、
法律構成上は、こちらが有利に進められる可能性が高い。
正直に言えば、「勝てる案件」でした。
依頼者も、どこかそれを期待していました。
「先生、これは勝てますよね」
その一言が、強く印象に残っています。
勝てる。でも、勝った先に何が残るのか
私はすぐに、別の問いを投げました。
「勝ったあと、あなたの生活はどうなりますか」
立退き交渉で勝つということは、
相手を法的に追い込み、関係を完全に断ち切るということです。
それによって、
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長年続いてきた仕事が終わる
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住む場所や事業の基盤が失われる
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争った事実だけが、地域や業界に残る
こうした“その後”が、現実として起こり得ます。
依頼者は、しばらく言葉を失っていました。
法律判断より先に、人生の設計が崩れていた
話を重ねるうちに、はっきりしてきたことがあります。
依頼者自身が、
「何を守りたいのか」
「どこまでなら譲れるのか」
を整理できていなかったのです。
勝ちたいのではありませんでした。
ただ、この状況から逃れたかった。
私はここで、
法的な勝敗の話を一度、止めました。
あえて、勝ちに行かないという判断
この案件で私が選んだのは、
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いきなり法的主張を突きつけること
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訴訟を前提にした交渉
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「勝てる」という言葉で背中を押すこと
これらを、すべてやらないという判断でした。
代わりに行ったのは、
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依頼者の生活・仕事・人間関係を言語化すること
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交渉が決裂した場合の“現実”を具体的に共有すること
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「勝つ以外の選択肢」を、冷静に並べること
でした。
結果として、
当初想定していた全面対決には至らず、
条件を抑えた形での合意に着地しました。
弁護士の仕事は、勝たせることだけではない
この案件は、
もし私が「勝てます」と言って進めていれば、
もっと派手な結果になっていたかもしれません。
しかし同時に、
依頼者の人生は、確実に別の方向へ転がっていたでしょう。
私は、
勝てる案件で、勝たない判断をした
その選択に、今でも迷いはありません。
法律は、人生を守るために使われるべきものです。
人生を壊すための道具になってはいけない。
この事例は、
その原点を、私自身に強く思い出させた案件でした。
👉 この事例で用いている「判断在庫」という考え方については、
こちらで整理しています。
「判断在庫とは何か ― 勝つためではなく、人生を壊さないための法的判断」






