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セクハラ・パワハラ・マタハラ・モラハラ

セクハラ

セクハラ(セクシャル・ハラスメント)、パワハラ(パワー・ハラスメント)を始めとして、マタハラ(マタニティー・ハラスメント)、育児介護ハラスメント・父親へのパタハラ(パタニティ・ハラスメント)、モラハラ(モラル・ハラスメント)などの多様なハラスメントが、次々と社会問題化し、企業の法的責任が問われる場面も増加しています。近時、顧客や取引先からの著しい迷惑行為であるカスハラ(カスタマーハラスメント:)という言葉も目に付くようになりました。

ハラスメント問題は、被害者と加害者との問題に止まらず、一定の場合には企業の法的責任が問われるのが常識となってきました。その場合の難しさは、〇〇ハラの定義、企業の法的責任が問われる一定の場合の〇〇ハラとは、具体的にどのような内容を備えたものなのか、それにあたるかどうかの基準はどのようなものかなどという事柄です。

 

定義は現場では役に立たない

結論から言うと、定義をいくら詰めてみても、現場ではほとんど役に立たないということです。それが主観的なものであっても、被害者側の受け止め方が大きな意味を持ち、トラブル・紛争の発生、解決の困難性を基礎付けるのです。

 

古いたとえですが、「同じことをキムタクに言われるとウキウキするが、斜め横の席にいる○○課長に言われると身の毛がよだつ!」それがハラスメント事件の特徴です。 実際の予防・解決は、個別具体的に緻密に行わなければなりませんが、根本に、関係性の問題があることを忘れると、大火傷をすることになります。

ハラスメント問題の現場での予防・解決に必要なことは、良い悪いとか、納得できるできないとかいった、物事の在り方、生き方・価値観といった視点ををとりあえず横において、素朴な「関係性」の問題と捉えることです。

パワハラ

そして、まずは、ある場面で個別具体的に対応していくことから始めることがキモとなります。対処方法は、臨機応変・総力戦的とならざるを得ないモノで、ここからは各論ということになります。

FAQ

以下では、FAQ(よく訊かれる質問)のうち、一般的に答えても差し支えないものを取り上げておきましょう。ただ、現実の予防・解決は、上記のとおりですので、頭に不安が起きた時点で、必ず専門家に相談してください。

 

――セクハラは、一般にも認知された言葉となりました。
当初は職務上の立場や権限を利用して、性的な要求をする場合(対価型セクハラ)が想定されていたようです。今は、性的言動によって職場の環境に悪影響を与える場合(環境型)なども含まれるようになりました。

 

――違法とされる範囲が広がったということですね。
例えば、20分間抱きつかれて猥褻な行為をされたというケース。かつては被告側が、逃げたり、助けを求めることができるはずなので、被害者の供述は信用できないと主張したこともありました。しかし現在では、職場での上下関係などを考え、そのような行動をとらない場合もあるとしてこうした主張を退けています(東京高裁の平9・11・20判決)。

 

――パワハラという言葉も頻繁に耳にするようになりました。
セクハラと同様、他者の人格を傷つける行為のひとつと捉えられます。
法律の中に登場する用語ではありませんでしたが、違法対象を、性的要素を伴わない場面に広げる中で作られた言葉です。
同様に、モラハラという言葉も生まれました。上司によるものではないとか、陰湿な非有形力によるものであるなどです。パワハラと区別して説明されることもありますが、明確な定義はありません。

 

――社員同士の問題でも、使用者に責任があるのですか。
かつては、社長や院長が事件を起こさない限り、関係ないと思い込んでいる使用者が多かったですが、今は少数派でしょうね。いうまでもなく、大間違いです。
使用者の職場環境についての法的義務が強化されるようになり、平成19年に施行された改正男女雇用機会均等法は使用者に対して、セクハラの事前防止と、発生した場合に対処し措置を講ずる義務を明記しています。従業員が職場でしたセクハラなどについて、使用者が損害賠償責任を負うことがあるのです。

 

――パワハラは法律上の規定がなかったのですね。

令和元(2019)年5月29日、労働施策総合推進法という法律の改正が国会で成立し、次の内容が盛り込まれ、パワハラ防止の法制化がされました。
(1)パワハラの定義(30条の2第1項)
(2)パワハラ防止措置義務(30条の2第1項)
(3)不利益取扱いの禁止(30条の2第2項)
(4)国などの責務(30条の3)
(5)紛争解決の援助等(30条の4~ほか)

もっとも、この法制化がされるまでもなく、裁判所で、パワハラ訴訟において、一定の場合に不法行為責任が認められてきました。
そもそも、「法律の規定がなければ、法的義務を負うことがない」という考えは、それ自体が重大な誤りです。特に労働法の世界では、このような場面が顕著に現れます。

セクハラの法規制が確立されたのは平成9年の雇用機会均等法改正です。しかし、セクハラ訴訟として不法行為責任が認められた裁判として、既に平成2年に判決があります。明文の法律がなくとも、裁判所が独自に判断し、法律に先行して法を創造していくこと(判例)も少なくないのです。違法対象が拡大される方向にあるという認識をもって下さい。世間から企業が加害者側と見られた場合、信用失墜、風評被害につながり、ダメージが大きい。職場環境配慮義務を負う使用者としては本腰を入れ、積極的に対応しなければなりません。

 

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目 次

前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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