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第57回 電通の過労自殺をどう捉える?

月刊「財界さっぽろ」2017年02月取材

会社を守る法律講座

――広告大手の電通で起きた新入社員の過労自殺の事件ですが、労災認定からわずか3カ月で書類送検されました。

前田 しかし、「ブラック企業」とレッテル付けでの非難が一気に高まった揚げ句、事件は風化しています。報道はいつも、読者受けするわかりやすい表面的な部分ばかりを強調するので、本当の問題点に目を向けることが難しい。事実はわかりませんが、経営者が他山の石として会社経営に役立たせるのであれば、事実に囚われず1つのモデルとして仮説を立て、問答してみるといいでしょう。

――どのような視点を補うべきですか。

前田 世間では残業代請求が流行していますが、電通の容疑は、長時間労働自体が違法だということ。「違法残業」といっても、残業代を支払わないことと、残業代を払っても働かせすぎはいけない、ということでは局面が違います。本当の問題点を見つけないと、自社の経営には生かせません。

――具体的には。

前田 少なくとも当初は、従業員自体が長時間労働を受け入れていた可能性を想定すべきです。仕事に生きがい・やりがいを感じていれば、自主的に長時間労働に赴くケースも多く、特にエリートが集まる企業ではその傾向が強い。

――個人の価値観で長時間労働をするのであれば、本人に任せるしかないのでは。

前田 本人がどの段階まで自分をコントロールできるかがポイントです。自己抑制は本人が思っている以上に早く効かなくなります。
場面は違いますが、数年前、大阪地検特捜部で主任検事が証拠改ざんをした事件がありました。経験上、おそらく無罪の被疑者を有罪にしようと目論んだ訳ではないはず。間違いなく有罪であるはずの被疑者を野に放つわけにはいかない、という使命感に燃えた結果だと想像できます。生きがい・やりがい・使命感は、いつの間にか制御できない魔物となるのです。

――会社という組織自体が歯止めをかけないと、常に再発を孕んだ職場になってしまうのですね。

前田 従業員の上昇志向を利用しようとすれば、悲劇は繰り返されます。そして、さらに問題なのは、この仕組みが構造化され、長年一人歩きしていることです。

――表面的な対応を積み重ねても改善しないということですね。

前田 その通り。経営者は構造に目を向け、悪弊を改善しなければなりません。「許可していないのに勝手に残っていた」などと反論するのは論外です。とはいえ、激変する社会の中で、人手不足に直面しながらも業務を強化することが企業の宿命です。まずは現実を直視し、個別具体的な思考のもと、対策を実践していかなければならないことですので、抽象論はこのぐらいにしておきましょう。

 

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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