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拾った物にだって,権利はある――しかし、遺失物報労金は、法律だけでは決まらない

一見、法律で機械的に決まりそうな問題でも、
実際には、「どの事情をどう評価するか」によって結論が変わります。

遺失物の報労金をめぐる問題は、
「法律とは何か」「判断とは何か」を考えるうえで、非常に興味深い題材です。

同じ法律でも、なぜ結論が変わるのか――法律と判断のあいだ

拾った物にも権利はあります。
しかし問題は、その金額がどう決まるかです。

実は、この問題は法律では決まりません。

このページを改訂した時点(2026/05/10)において適用される遺失物法において、拾得者は所定の手続を経た場合、遺失者が判明し、遺失物が返還された場合、遺失者は拾得者に対して、物件の価格の5%以上20%以下の報労金を支払う義務があります(28条1項)。この請求権は、物件返還後1か月を経過すると行使できません。また、遺失物の所有者が判明しない場合、一定の場合、拾得者がその遺失物の所有権を取得します(民法240条)。

5%以上20%以下という割合が明示され、一見すると分かりやすいルールのようですが、
実際には、ここから先が決まりません。

「物件の価格」をどう評価するか、
「割合」をどこに設定するか。

この部分は、法律には何も書かれていません。

裁判例を見ると分かるように、
同じような事案でも評価は大きく異なります。

つまり、結果は自動的には決まりません。

どの事情を重視するか、
どの程度の危険性を評価するか。

その判断によって結論が変わります。

最終的には、
どの事情をどのように評価するかという判断が入ります。

これは、機械的に決まるものではありません。

同じルールの下でも、
判断によって結果が変わる余地が残されています。

問題は条文の理解だけではなく、
どの事情をどう評価するかという判断にあります。

同じ法律でも、結果が変わるのはそのためです。

【判断基準を確認する】
ここまで読まれて違和感を抱かれたら、
違和感の原因は、
個別の事情ではなく、
判断基準にあります。
▶ 判断とは何かを整理する

ここまでご説明してきたことは、かつて私が寄稿した記事をご覧いただけますと、わかりやすいと思います。寄稿当時の法律に基づいていますが、ぜひ具体的な事例でご確認ください。

1700万円を拾って届けた。謝礼は?・・・

本稿は、平成18年の遺失物法の全面改正前の内容です。

ある男性が預金通帳や印鑑が入ったかばんを拾いました。

この預金には,1700万円以上の残高がありました。
この男性は、謝礼の支払いがないのは遺失物法違反だとして、裁判所に,落とし主に255万円の支払を求める訴訟を起こしたというのです。

拾った物にも権利はあります。
しかし問題は、その金額がどう決まるかです。

実は、この問題は法律では決まりません。

さて、遺失物法・・

遺失物法には,次のような定めがあります。

(報労金)
28条 物件(誤って占有した占有した他人の物を除く。)の返還を受ける遺失者は,当該物件の価格(第9条第1項若しくは第2項又は第20条第1項若しくは第2項又は第20条第1項若しくは第2項の規定により売却された物件にあっては,当該売却による代金の額)の100分の5以上100分の20以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない。
2(以下略)

くどくどと分かりにくい書き方ですが,条文を見ると、遺失者(落とした人)が判明し、遺失物(落とした物)が返還された場合、遺失者は拾得者(拾った人)に対して、物件の価格の5%以上20%以下の報労金を支払う義務があると定められています。

要約すると,一見分かりやすいルールのようですが、
実際には、ここから先が決まりません。

「物件の価格」をどう評価するか、
「割合」をどこに設定するか。

この部分は、法律には何も書かれていません。

(1) 「物件の価格」とは,どのように決めるのでしょうか。
(2) 「5%から20%」の幅がある中で,どうやって割合を決めるのでしょうか。

これらについては,法律には何も定められていないのです。

通帳を拾った新潟の男性は,1700万円の残高がある預金通帳の価格を1700万円であると主張し,その15%である255万円の報労金の支払いを求めたのです。

「物件の価格」とは,どのように決めるのかという点((1))ついて,遺失物が現金であれば,話は簡単です。1700万円の現金の「価格」は,誰が考えても,1700万円と考えるでしょう。

しかし,1700万円の残高がある預金通帳の「価格」は1700万円ということができるのでしょうか。

裁判例を調べてみると,手形や小切手についての事例があります。

例えば,11通の約束手形(額面合計2523万0300円)について,額面の2分の1又は3分の1を「物件の価格」として報労金が算定した事例があります(東京地裁平成3年5月30日判決)

また,小切手の遺失物の価格を額面総額の100分の2と評価するのが相当とするとした事例があります(東京高裁昭和58年6月28日判決)。

この小切手は,日本銀行が振り出した小切手であり,なんと額面総額は78億円を超えるものでした。日本銀行が振り出すのですから,不渡りというこはありえず,必ず現金化されます。つまり,使う分には現金と同様の機能を果たすはずです。

「5%から20%」の幅から,割合をどう決めるか((2))について,現金の場合に次のような裁判例もあります。

土地の売主が地中に4000万円の紙幣を入れたクーラーボックスを埋め込み、その後探したが発見できないまま、この土地の売却先に引渡しました。その後,第三者がこの紙幣が入ったクーラボックスクを発見したいう事例です。

裁判所は,この紙幣は遺失物にあたると判断したうえ,紙幣の発見者に対する遺失物報労金5パーセントが相当としました(高松地裁観音寺支部平成12年7月17日判決)。

前記の額面合計2523万0300円の約束手形については,報労金の額を約束手形の価格(853万2317円と認定)の10パーとしました。
また,78億余円の小切手については,小切手の価格(は1億5741万7528円と認定)の5パーセントを報労金とするとしました。

以上の事例を見ると,現金以外の場合の物件の価格は,例えば,支払いをするところに措置を取るなど損害を防止するような手段がとれることも踏まえ,遺失後,物件の性質に応じ第三者の手に渡って遺失者が損害を受ける危険性の程度によって決めることになるし,報労金の額を決める割合は,状況によってケースバイケースに考えていくというほかないので,裁判所が物件の価格等諸般の事情を考慮して決定できるというくらいまでしか,ルールを作ることはできないでしょう。

以上を見ると分かるように、
同じような事案でも評価は大きく異なります。

つまり、結果は自動的には決まりません。

どの事情を重視するか、
どの程度の危険性を評価するか。

その判断によって結論が変わります。

手形や小切手は,これを用いて,拾った人などが,本人を装い支払いを受けてしまうということもあるというだけではなく,ここでは詳しくは述べないけれど,「善意の第三者」という言葉が使われるように,第三者が権利そのものを正当に取得する場合もあります。

これに対し,預金通帳は,預金の払戻を受ける際に証拠として必要だということであり,第三者が預金残高を正当に取得するということはありえず,手形や小切手の場合と比べ,遺失者の危険性のレベルは低いということができます。

また,価値が高ければ,報酬額を決める割合も少なくなるということも納得できるでしょう。

しかし,このように,一応の枠組みも見えてはきますが,いくら頑張ったところで,自動的に金額とか割合が決まる基準をたてることができるわけではありません。
つまり,裁判となった場合,結局は,裁判官の判断次第ということになるのです。

しかし,裁判官が皆似たような考え方で判断するのかというと決してそうではありません。

最終的には、
どの事情をどのように評価するかという判断が入ります。

これは、機械的に決まるものではありません。

同じルールの下でも、
判断によって結果が変わる余地が残されています。

遺失物の報労金は、
「借りたお金は返す」というような明確な義務とは少し異なります。

本来は、
「拾ってもらって助かった」という感謝の問題でもあるからです。

しかし、感謝だけに委ねると、
極端に少ない謝礼を提示する人もいれば、過大な要求をする人も出てきます。

そのため遺失物法は一定の基準を定めていますが、
最終的には、なお評価判断が残ります。

こうして,遺失物法が,上記のとおり,一定の基準を定めているのですが,遺失者と拾得者の間のトラブルに,幅をもうけているので,やはり,今述べたような逸失者,拾得者の立場や利害関係をどのように考えるかという判断が必要であり,裁判官の価値観,人生観に基づいた評価判断が入ることは避けられません。さらには,恣意的な判断が入らないという保障はないのです。

問題は条文の理解だけではなく、
どの事情をどう評価するかという判断にあります。

同じ法律でも、結果が変わるのはそのためです。

同じ法律でも結果が変わるのは、
法律が機械的に適用されるわけではないからです。

どの事情を重視し、
どのように評価するか。

その判断が、結果を左右します。

【判断基準を確認する】
ここまでで違和感を抱かれたら、
違和感の原因は、
個別の事情ではなく、
判断基準にあります。
▶ 判断とは何かを整理する

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「判断の現場に立ち続けるということ」
『恐怖と向き合い、なお判断し続けるという仕事
――弁護士として、人生の修羅場に立ち会ってきて思うこと』

 

前田 尚一(まえだ しょういち)
弁護士として30年以上の経験と実績を有し、これまでに多様な訴訟に携わってまいりました。顧問弁護士としては、常時30社を超える企業のサポートを直接担当しております。
依頼者一人ひとりの本当の「勝ち」を見極めることにこだわり、長年の経験と実践に基づく独自の強みを最大限に活かせる、少数精鋭の体制づくりに注力しています。特に、表面に見えない企業間の力学や交渉の心理的駆け引きといった実務経験は豊富です。 北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校、北海道大学法学部卒業。

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