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正職員の手当削減「合法」との山口地裁判決:同一労働同一賃金を図る手法として

正職員の手当削減「合法」
地裁判決、非正規と待遇格差解消で

日経電子版(2023年6月5日 2:00)の記事のタイトルです。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO71554080S3A600C2TCJ000/

「正職員の手当を削って非正規職員と同一労働同一賃金化を図る手法は違法だとして、済生会山口総合病院(山口市)の正職員9人が手当減額分の支払いを求めていた訴訟で、山口地裁は5月24日、請求棄却の判決を出した。正規職員の待遇を引き下げることで正規・非正規間の格差を解消する手法を容認する初の司法判断とみられる。」と冒頭部分

「働き方改革関連法」のひとつ、「パートタイム・有期雇用労働法」(正式:「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(2021年4月1日全面施行[中小企業にも適用]))は、同一企業内において、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者。いわゆる「正社員」)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者。尚、「労働者派遣法」で派遣労働者)との間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに、不合理な待遇差を設けることが禁止します。
なお、ガイドラインが策定され、どのような待遇差が不合理に当たるかの原則となる考え方と具体例が示されています。

しかし、この改正前からの正社員の待遇をそのままとして、パートタイム労働者らの待遇差を解消するということになれば、事業主は、新たにそのための資金を用意しなければならず、多くの場合、なかなか難しいというのが現実でしょう。
そこで、同一賃金同一賃金を、正社員の待遇を下げつつ実現しようとすることも考えられます。

しかし、一方で就業規則による労働契約の内容の変更は原則的には禁止されています(労働契約法9,10条)

令和5年5月24日山口地裁判決は、正規職員の待遇を引き下げることで正規・非正規間の格差を解消する手法を容認したものであり、基本的には、事業主側として受け入れたくなるものですが、そのような取扱いはどのような事情の場合に及ぶのか、そもそも山口地裁判決の判断は、上級審で是認されるのか、まだまだ飛び乗るのには不安定な状況であるといわなければなりません。

 

【参照条文】
〇短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

(不合理な待遇の禁止)
第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

労働契約法

(就業規則による労働契約の内容の変更)
第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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