働き方改革関連法の施行に伴う運送・物流業界の2024年問題が注目される中、ドライバー不足が危惧されています。
ところが、ヤマト運輸が、配達を委託している個人事業主およそ3万人との契約を2024年度末に打ち切ることにしたことも、ドライバー不足ということに目を向けると、一見分かりにくい事態です(「ヤマト運輸の契約終了 個人事業主支援の組合 救済申し立て」NHK「NEWS WEB」2023年10月31日 20時45分》)。
一方、ヤマト運輸がメール便などの配達を日本郵便に全量委託することを決めました。
ヤマト運輸は、「宅急便」とのネーミングで、「郵便小包」に勝負を挑み、差別化サービスとして「翌日配達」を実現して、個人宅配市場で圧倒的に強い位置付けを獲得しました。
最近まで経営学の必読書とされてきた、小倉昌男『小倉昌男 経営学』(1999年日経BP社)では、《かねて郵便の民営化を主張していた労働組合は、このとき組織を挙げて郵政省と闘う姿勢を示した。そして、年賀郵便の配達がいつでも肩代わりできるよう、年末年始の営業体制の確立を組合の運動方針に折り込んでいたのである。それが後の年中無休体制へのスムーズな移行を促した。》(「第10章労働組合を経営に生かす」)などといった記述が満ちあふれ、隔世の感を否めません。
ところで、労使関係の分野では、法律面については、法律での整備が遅々としており、早くから、裁判所がどんどん新しい法理を確立してきましたが、裁判所の役割は、個別具体的な事件の処理であるため、良くも悪くも、その法理が、直ちに社会への拡がりとなるものではなかったようです。
しかし、国の「働き方改革」の政策と前後して、権利意識の高揚、情報が一気に進み、社会の受け止め方が大きく変わり、見た目においても、世の中の動きも大きく変容してきました。
ただ、あくまで私見ですが、この大きな変容の実態は、
個別の争点は定番のまま、しかるに、受け止め方と、紛争の現れ方が変わった、
あるいは、
受け止め方と、紛争の現れ方が変わった、しかるに、個別の争点は定番のまま
というものに思えます。
例えば、いけいけどんどんで経営側ベースで広く普及するようになった「定額残業代(固定残業代)」について、不況の煽りから、従業員から同意書への署名押印を得て定額残業代の削減を実施したが、労働時間に応じた割増賃金を支給するとしても、違法な不利益変更となるとされた訴訟も現れています[M社事件]。
しかし、『小倉昌男 経営学』では、《残業が多いのは日本の企業の特色である。日本は外国に比べ総労働時間が長いから、もと時間短縮をしなければならないと言われる。だが労働者は、同じ仕事を早くやるよりもゆっくりやった方が賃金が増えることになる。彼らにしてみれば、残業をすれば手っ取り早く増収になるのである。そこで残業手当ての打切り計算方式とか、限定残業手当て方式などが工夫されているが、形式的には労働基準法に違反するおそれが出てくる。そこに労働基準法の問題があると思う。》などと述べられおり、法律問題としての本質はとっくに把握されていたのです。