月刊「財界さっぽろ」2019年11月取材
生活に潜むリーガルハザード
現行の法律では不正行為と法的責任は別物
関西電力の現会長、現社長を含む役員らが福井県高浜町の故・森山栄治元助役から3億2000万円もの金品を受領した問題が世間を騒がせています。
問題点をきちんと抑えて再発防止策を検討することは、個人の生活に潜むハザード(潜在的危険性)の回避にも効果的です。今回はこの事件をモデルに思い付いたことを述べます。
この金品受領問題は刑罰をもって対処するに相応しい事案と私は思います。繰り返しうる可能性、再発抑止の必要性、事実関係の認定の難易などを考えれば当然ではないでしょうか。具体的な不正の事実が明らかになれば、それを前提とした解決の糸口も出てくるでしょうが、不正の立証は難しく、事件発覚の経緯が変われば実際に不当行為があっても明らかにできない場合もあります。また、単独では不正といえないまでも、全体として便宜が図られたといえるような場合もあるでしょう。
刑事事件であれば「疑わしきは被告人の利益に」が原則ですが、そもそも不正行為があったかどうかによって法的責任の有無を問われるべきではないでしょうか。
苦しい弁解は逆効果 調査の精度も疑わしい
職務上で金員を受け取ったり、要求・約束するような場面では、公務員であれば刑法の中に「賄賂罪」が定められています。一定の行為や不正行為に関係なく「収賄罪」として刑罰の対象です。つまり、不正かどうかを問わず、そもそも職務との関係で金員を受け取ること自体が許されていません。
公務員ではなくとも、公共性の高い事業者が不正行為の有無にかかわらず金員を受け取るだけで、一定の刑事責任を負わせる刑罰法規の制定を検討してもよいのではないでしょうか。
また「わずかなことで急に怒りだし、長時間、叱責、激高することが多々あった」とか「おまえの家にダンプを突っ込ませる」などと森山元助役がすごんでいたと公表されていますが、警察に持ち込めばよいだけのことです。関西電力からの持ち込みであれば、警察の取り組む姿勢は一般市民が持ち込む場合とは違うはずですから。
むしろ、1回受け取ってしまったことを盾に取られ、その後も受け取らないわけにはいかなくなったとの弁解の方が理解できます。〝死人に口なし〟の場面で被害者的事情を持ち出す弁解は、まずは疑ってかかるのが必定です。
関西電力が設置した調査委員会の委員長は「大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件」で懲戒処分を受けて退官した小林敬元大阪地検検事正。きちんと調査するつもりだったのかも疑わしくなります。これは、あくまで検討・考察の話ですが、実際、取締役会への報告はされていませんでした。