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第53回 依頼者との協働作業が弁護士の仕事

月刊「財界さっぽろ」2016年05月取材

会社を守る法律講座

――前田先生、見ましたよ、3月に放映されたHBC「北のビジネス最前線」。事務所スタッフや顧問先の社長らが「前田尚一法律事務所」の姿勢や取り組みを紹介したわかりやすい番組でしたね。

前田 なかなか好評でした。TV局が番組をYouTubeにアップロードしています。番組のHP(http://www.hbc.co.jp/tv/info/biz/)にアクセスするか、「最前線 前田弁護士」と検索すると見ることができます。

――番組の中で企業法務について、行動する前に「検討」「相談」「作戦会議」が必要だと述べられていました。また、経営者が自分の価値判断で行動した結果、大きなトラブルとなった例として解雇問題を挙げていましたね。

前田 この連載では以前から述べていますが、せっかくの機会ですからまとめてみましょう。

まず、労働法の分野では、法律はもちろん、裁判所も行政機関である労働委員会も基本的に労働者保護の立場にあり、経営者の価値観とは大きく反する結論となることが多くあります。企業の立場からすると、態度不良、能力不足と評価せざるを得ない場合でも「著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがない場合に限る」といった理由で、解雇を無効とした裁判例は珍しくありません。中には業務命令違反の労働者に対する4回のけん責(戒告)後でも、解雇を無効とした事例もあります。

――労働者の自発的な退職を説得する「退職勧奨」という方法があると聞きますが。

前田 使用者が一方的に契約を解約する解雇と別物ですから、有効な手段だと思われますが、グレーゾーンがあるばかりか、ブラックと評価される場合もあり注意が必要です。町立病院に勤務する臨床検査技師の退職の意思表示の撤回が有効であるとされた事例(旭川地裁2013年9月17日判決)。があります。残業手当対策については、日本マクドナルド事件での「管理監督者制度」、ザ・ウィンザー・ホテルインターナショナル事件での「固定残業手当制度」(札幌高裁2012年10月19日判決)など、やり方によっては期待した効果が否定されかねません。一見お手軽に見える方法は、その限界を理解し、慎重に検討すべきです。

――企業は大変ですね。

前田「法律」は、弱い立場にあるからといって味方をしてくれる訳ではありません。〝法律を知っている者に味方する!!〟ものだというのが私の実感です。自分を弱者あるいは被害者であると頑固に言い続けても、望んだ結果を導けません。そして、私は「弁護士」の仕事は〝クライアント(依頼者)との協働作業〟だと考えています。

今回ご紹介した裁判例の説明に加え、弁護士の選び方などもこの連載で詳しく述べています(第49~52回)。参考にしてください。

 

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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