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第56回 弁護士として見る高畑容疑者不起訴の裏側

月刊「財界さっぽろ」2016年11月取材

会社を守る法律講座

最近顧問先となった会社の社長A氏との酒席での会話です。

 

A氏 強姦致傷容疑で逮捕された高畑裕太容疑者が不起訴処分となりましたね。示談が成立したので告訴が取り下げられたのですね。

前田 いいえ。訴追(起訴)・処罰に告訴を必要とする親告罪(刑法180条1項)である強姦罪に対し、強姦致傷罪は犯罪の程度がより重大で、訴追・処罰を被害者個人の意思に委ねる限界を超えていると考えられ、親告罪ではないのです。

A氏 仮に有罪になっても、執行猶予が付くのではないですか。

前田 ここが重大なポイントです。強姦致傷罪の場合、無期または5年以上の懲役(181条2項。「死傷」をまとめて規定)とされています。懲役の場合の執行猶予は3年以下でないと付けられません(25条2項)。つまり、起訴されて強姦致傷罪で有罪となれば、刑務所に入ることになります。酌量減軽(66条)という極めて例外的措置もありますが、刑事弁護人としては例外的措置を最初から狙うのは得策とはいえず、まず不起訴に持ち込むというのがプロとしての腕の見せどころでしょうね。

A氏 示談ができても検察官は起訴できるのではないのですか。

前田 そこが難解な点です。私は企業法務など民事専門ですから、もし私が刑事弁護人だったら、という架空の思い付きで推測します。

まず注目べきは、釈放と同時に、担当弁護士が「違法性の顕著な悪質な事件ではない」「起訴されていれば無罪主張をした」などと述べている点。こうした発言をする以上、被害者側から蒸し返されないための対策がされているはず。私であれば、容疑者側からの一定の発言を容認してもらうことを示談の内容にしておくでしょう。そして何より、検察官が起訴するのを差し控えたくなるような関係を被害者との間で構築できるように努力しますね。初期の報道で気になった点もあり、この続きは店を変えて内緒でお話ししましょう。

A氏 しかし、俳優生命は絶たれたのではないですか。

前田 今回は、刑務所に行かずに済んだこと、それがとても難しいこと、そして実現したことに着目すべきです。高畑淳子氏が母だからこそかもしれませんが……。

テレビには、高畑容疑者の担当弁護士として若い女性弁護士が登場していましたが、所属事務所の代表は、三浦和義氏、安部英医師、村木厚子氏、鈴木宗男氏、小沢一郎氏らの弁護を担当した弘中惇一郎弁護士。私の想像を超える巧みな弁護活動がされていたはずです。

高畑淳子氏の速やかな記者会見を見ていると、ベッキー氏、高島礼子氏、中村橋之助氏らの記者会見と比較し興味深い点があります。後日、報道機関に対する対応というテーマでお話ししましょう。

 

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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