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第58回 弁護士が消える・弁護士が消される

月刊「財界さっぽろ」2017年03月取材

会社を守る法律講座

ある社長A氏と弁護士と人工知能(AI)について語りました。

 

A氏 10~20年以内にロボットに取って代わられそうな職種として「弁護士」が挙げられています。

前田 アメリカの報道機関CNNでは「訴訟以外の弁護士の仕事は、まもなくインターネットを使ったサービスに取って代わられる見通しだ。例えば『LegalZoom』のサービスでは、商標登録申請、遺言、離婚などの手続きができる」と伝えています。
注視すべきは、LegalZoomのような企業が法的サービスの商品化を進めること、企業が社内に弁護士(インハウスローヤー)を抱え、法務機能を強化して内製化することなどです。従来の弁護士の活動領域を侵食するでしょう。ただ、〝機械〟には難しい点もあります。法律問題といっても、法律を適用することだけが依頼者の意に適う解決になるとは限リません。少なくとも現在のAIは、意味を深く理解することについて苦手であると国立情報学研究所の新井紀子教授は分析しています。

A氏 具体的には。

前田 フレデリック・W・テイラーという人物をご存じですか。
ピーター・F・ドラッカーの著書の中にしばしば登場する人物です。彼は製造業における肉体労働の生産性を50倍に向上させる「科学的管理法」を確立させ、先進国経済を生み出したと紹介されています。
彼の手法は、初めに仕事を個々の動作に細分化し、その動作に要する時間を記録します。無駄な動作を探し、不可欠な動作を短い時間で簡単におこなえるように、それらの動作を組み立て直すのです。そして、最後の仕上げに各動作に必要な道具を作り直す(詳細はドラッカーの著作をご覧ください)。

A氏 それが弁護士業の将来とどのような関係が……。

前田 この手法が全米に広まったのは1910年。アメリカ東部の鉄道会社が、貨物輸送運賃の値上げを要求した事件がきっかけです。荷主側の弁護士ルイス・ブランデーズ氏が、テイラーの管理法を紹介し、鉄道会社の非効率な運営を指摘したのです。
単に法律論を展開するのではなく、経営管理の実態にまで踏み込んだ論戦によって依頼者の利益を確保しようとしたブランデーズ弁護士の手法は、今、まさに社会に求められています。依頼者に対し、これまでのようにもっぱら訴訟を中心に専門知識・スキルの提供ばかりにとどまっていてはダメなのです。弁護士が応えるべき在り方を象徴する先例だと思います。
と言う訳でA社長、今回の案件は法的思考にとらわれず、当方と相手の具体的な利益を分析し、調和させる手法で解決したいと思います。立場が違うので、求めるものが違うところがキモとなります。明日、早朝会議をしましょう。

 

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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