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第65回 予防法務・早期解決の実態とは……

月刊「財界さっぽろ」2018年05月取材

会社を守る法律講座

異業種交流会での青年実業家A氏との談話です。

A氏 知人の弁護士が、ここのところ訴訟の数が減って経営が大変だ、と嘆いていました。

前田 確かに、地方裁判所に提起された民事訴訟事件の新受件数は、サラ金等に払いすぎた利息を取り戻す「過払い金返還請求事件」の激増の影響で、2006年以降急増し、09年にピークとなって、その後減少に転じました。ただ、新受数は15万件を切ってから横ばいで、近年は若干増加しています。むしろ、10~12万件程度であった91、92年以前の頃や10万件を切っていた79年以前の時期に比べると、高い水準であるともいえます。

もっとも過払い金返還請求事件が急増した時期は〝弁護士大増員時代〟の到来の頃です。「過払い金バブル」が去ると、弁護士一人当たりの件数は激減したということになるのでしょう。

A氏 知人の弁護士は「過払い金バブル」に代わるものとして、「未払い残業代」に力を入れているとのことでした。

前田 ネットで「残業代請求」や「未払い残業代」と検索すると、労働者側にPRした弁護士のホームページがずらっと並びます。残業代チェッカーを設置するサイトのほか、弁護士が開発した残業の証拠確保と残業代推計のアプリとされる「残業代証拠レコーダー」を無料提供するサイトもあります。若手弁護士らが、手っ取り早く手を出したくなる分野なのでしょう。

また、これも弁護士大量増員時代の影響なのでしょう。企業側・経営者側の弁護士の多くが、紛争化する前の予防や訴訟外でのスピーディーな解決を強調して宣伝するようになりました。

A氏 紛争の早期解決はとてもよいことなのではありせんか。

前田 特に企業法務においては「トラブル」が「紛争」となる前に、「問題」が「損害」となる前に早期に解決することが最重要事項の1つであることはいうまでもありません。しかし、「訴訟に持ち込まない解決」の中身が〝弁護士の訴訟スキル・ノウハウ不足〟を隠蔽するものであったり、処理のスピード化が早期の報酬確保といった〝経営の効率化のため〟の方策にすぎないのであれば、本末転倒というほかありません。

加えて、早期解決の実態が、相手方との拙速な妥協でしかないのであれば、かえって将来に火種を残し、円滑な企業経営を阻害するものともなりかねません。

そもそも「予防法務」は訴訟で場数を踏んだ上での経験を基に構築すべきものです。経験不足が否めない未熟な弁護士が、机上の空論でどこまで予防できるのかは甚だ疑問と言わざるを得ません。

次回は、こうした状況下で企業間の訴訟が増えていることを踏まえ、中小企業もトラブル・紛争に備える必要性についてお話します。

 

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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