札幌地方裁判所平成11年3月1日民事第1部判決
“パチンコ疑惑報道”忍従2年半
札幌市議菅井盈が道新に全面勝訴

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本判決は、「札幌市議がパチンコ店の出店工作をした旨の新聞記事について、名誉毀損による損害賠償として200万円を認容した事例」として、判例雑誌「判例タイムズ」誌に紹介 され、「慰藉料額の認定も含め、実務上参考になるもの」と評価された事案です(1047号215頁以下)。

もっとも、市議会議員が政治生命を失いかねない状況になったにもかかわらず、200万円という認容額は低すぎるのではないかと思う方もおられるかも知れません。
しかし、わが国の当時の裁判実務では、損害賠償の認容額は、世間常識からみると、驚くほど低く、殊に、名誉・信用といった無形の財産に関する慰藉料は、著しく低いというのが実情でした。

この点については、法務省民事局参事官、東京高裁裁判官を歴任した著明な実務家は、80以上に及ぶ裁判例を分析したうえ、「実務上は、新聞、週刊誌等のマスコミによる名誉毀損の場合、だいたい慰謝料として100万円が認められるのが相場といった感覚があるように思われる。」と指摘していました(升田純「名誉と信用の値段に関する一考察」NBL627号42頁以下)。

名誉毀損に対する慰謝料100万円というのが裁判例の相場であるといわれ、著しく低額であった時代に、本判決は、わが国の裁判実務におけるの相場に照らす限り、かなり高額の賠償額を認容してもらえた事例の一つであると言ってよいものでした。

ただ、私は、名誉・信用保護訴訟において認容額がいくらになるかという自体は、さしたる意味を持っていないとも考えています。名誉、信用は、あらゆる活動の基礎である。名誉、信用それ自体の価値も重要です。そして、それぞれが侵害され、波及して引き起こされる事態こそが深刻であり、侵害されて始めてその重要性が現実のものとなります。。

ひとたび名誉・信用が失墜される事態となれば、企業であれば、経済活動が停止しかねないし、政治家であれば政治生命を奪われかねない。また、公益団体であっても、社会活動に影響を及ぼし、その存在自体否定されかねないのです。
そして、そのような致命的な結果がいったん現実化すれば、元に戻すことはほとんど不可能です。

私は、名誉・信用毀損訴訟は、名誉・信用そのものに限らず、それまで培ってきた「すべての本来」を守ることにあると考えています。
報道その他の名誉・信用毀損行為に対する訴訟提起は、適切な時期に訴訟を提起して、正当な反論の場を作り(この段階では、泣き寝入りしない姿勢を示す段階である。)、勝訴判決をもらってこそ意味があると考えています。

 

本件でも、新聞記事が掲載された当時、依頼者は、市民から、「◎◎新聞がウソを書くはずがない。ウソであるなら証明してみろ。」と詰め寄られました。冷静に考えれば、実際にありもしなかったことを証明することなどできるわけがないことがわかります(「悪魔の証明」)。しかし、世間が、虚偽を鵜呑みにして信じ込んだまま、存在しない事実が、一人歩きし続けると、いつのまにか存在するかのような地位を確立してしまうのです。本当に怖いことです。
複数の弁護士に受任を断られた依頼者が、そのまま泣き寝入りしていたなら、その政治生命に壊滅的な打撃を与えられたままで終息したに違いありません。

誤った不祥事報道がされた場合の苦労話は,
こちら『不祥事報道がされた場合に
「ウソをつかない経営」を訴える難しさ』
をご覧ください。

依頼者は、訴訟を提起し、本来あるべき姿勢をきちんと示すことによって、世間が誤りを信じ込むという事態を回避しました。あしかけ3年に及ぶ闘いの結果、社会に真実を明らかにすることができたのです。

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前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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