札幌市中央区南1条西11-1コンチネンタルビル9階
地下鉄東西線「西11丁目駅」2番出口徒歩45秒

「心労で毛髪抜け腹据わる」

 

ビル地下の行きつけで昼食しながら、それまで見てもいなかった日経新聞(2022年6月17日版)を例によって最後のページから逆に見始めたら、「心労で毛髪抜け腹据わる」とのタイトルが目に入りました。

住友林業最高顧問・矢野龍氏の『私の履歴書』での連載でした。

『私の履歴書』
矢野龍(16) 無援の戦い
「心労で毛髪抜け腹据わる 弱腰の会社辞める覚悟で帰国」

「弁護士」という文字が飛び込み、そこの箇所に目を向けると、
「先方は訴訟の間、弁護士が7人も交代した。不利とみると見切りを付けて去って行くのだが、大きな会社からお金を取って、それで成功報酬を得ようとする弁護士が、次から次に現れるのだ。」と。

どんな話かと、冒頭から読み始めると、「シアトルで住友林業が起こされた訴訟に対し支援の姿勢を見せない東京本社の海外部に僕は怒り狂って電話をした。」と。
著者は、とても怒っている。

次のように続く。
「課長とはなすと、方針を決めているのは自分ではないというようなことをもごもご言うので、じゃあ誰だと聞くと常務だと言う。それで日本の夜にあたる時間に常務の家に何かも電話をした。すると出て来ないのである。」

そして、
「僕は腹をくくり、自分で訴訟費用を負担してでも争うと決めた。」
「弁護士にいくらかかるのか聞くと1億円という。」
「日本にいる母に電話し、親戚の中からかき集めて1億円用意してくれと頼んだ。「ふうん、それくらいならなんとかなるんじゃないの」と動じない母が心強かった。」
…………………。

一体、どんな母さんだったのだろう。
私の場合、親戚を広めに考えて集めようとしても、1億円など無理。
そもそも、私の場合ですと、仕事に就いてから母に相談する話でもないし、私を取り巻く限りの世間一般おいてであるが、「浮世離れ」どころでない展開。

自伝タイプの武勇伝。その後も一応読んでみました。
…………………。

「………。しかし許せないのは本社である。……。シアトルでの任期が終わると、僕は会社を辞めるつもりで日本に戻った。」

多分、世間的には、ノンフィクションとして読まれるのだろうけど
法律家の端くれである私としては、全体として違和感のある読み物でした。

⇒ https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61766850W2A610C2BC8000/

専門家への依頼・専門家の活用

確かに、全ての面で、自分の考えどおり進めると、専門家顔負け、上司、先輩顔負けに最善の成果を達成できるという方も、希少ながらいらっしゃいます(自己満足力が強い方も勘案すると、かなり多くなります。)。

しかし、私の場合ということであれば、その事柄の重大さ、複雑さにもよりますが、専門外のことの対処は専門家に委ねてしまいます(もちろん、費用対効果を損なわないことが前提です。)。
専門外の分野に踏み込んでみたところで、その道の素人である私には、その道についての判断能力がないからです。
それまで見てきた範囲さえ、広い狭いが格段に違う上、そもそもが、手元の知識の量・質もそうですが、その基本的考え方・マインドを理解していないのに、一定の重大さ、複雑さがある事項を、専門家のように、あるいは、専門家と対等に議論しても、生産的ではなく、かえって良くない方向に行きかねないと考えています(もっとも、広い範囲で見ると、後記「附」の問題が拡大してきました。)。

最近受けた手術を例にする喩え話となりますが、事前の注意として、病院からは、服用していた血液をサラサラにする薬(抗凝固剤)の服用を所定の日から中止するよう指示されておりました。その種の薬は、手術した場合の出血を止める血液の作用を妨げてしまうからです。
ところが、私は、迂闊にも飲むのを中止するよう指示された期限(例えばこれのように)を失念し、半日遅くまで服用してしまいました。
素人としては、不安でたまらなくなります。
しかし、専門家側としては、禁止事項は少し広めにしているのが通例で、入院後手術前に、止血に問題がないかどうかをチェックするので、その時点で結論を出せばよく、素人の不安に応じ何日も前に結論を出す必要はないのです。

依頼する専門家の選択

それでは、どのように依頼する専門家を選ぶか。

専門的なことの判断はまかせるほかないと以上、専門外のことを見て選択することはできない、そう確信している私は、
その方がそもそも信用できる人であるかどうかをまず第一歩としています。

もっとも、それをどう判断するかは、一義的ではなく、
人生さまざまなことに対応していかなければならない各人それぞれが、生来のものか、経験によるかはともかく、自分なりの方法を身に付けておかなければならないのですが、
私の場合であれば、それまでより長くお付き合いしてきた紹介者がそういうことの紹介について信用できる人であるかどうかなども、重要要因の一つとなります。
あの先生は良い人だとか、優しい人だといった人柄面ばかりを強調される方は、ここからはずれてきます。
私は、とても愛想がよいけれど、手術の下手な医師より、無口でつっけんどんだけれど、手術が上手い医師の方がよいです(そういうと、当たり前のことですが、)。

[附]専門家不在の時代

ただ、この頃は困ったことに、生活全般において、専門家の対応を受けることが難しくなってきたというのが実情ですね。
[ ⇒ 「専門家は減る一方。求めるのは知見?手軽さ?」]

この局面では、別の思案で、自分なりの作戦を立てていかなければならない。とても大変な世の中ですね。

 

 

 

前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

dbt[_C24 k̗ \݃tH[