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LINEのやりとりにおけるメッセージの性格

当事務所が担当する案件で、裁判所に提出した「控訴理由書」の一節をご紹介いたします。
LINEのやりとりについて、意思表示の確実性証明力(≒証拠価値)といった視点から、一方の立場で、原審の判断の稚拙さを指摘する論駁です(といっても、原審はこの点の視点を全く欠いています。)が、今日この頃のコミュニケーション全般の危険性を、LINEのの特性とその公的利用に目を向けて問題提起する論考です。

(引用開始)
2 LINEのやりとりにおけるメッセージの性格

(1)控訴人と被控訴人とのやりとりは、…………。…………ことから、当時の利害状況が勘案される中、始まったのであるから、その背景事情を勘案してやりとりを検討しなければならず、その場合、とりわけ文言の交換だけで行われるLINEのやりとりでのメッセージの意味は、その特質を踏まえて理解する必要がある。
しかるに、原判決の、特にLINEで投稿された控訴人代表者の応答メッセージに対する意味付けは、メッセージの文字面だけに目を奪われ、本件控訴人代表者の応答メッセージを、あたかも民法522条1項の「承諾」であるかのように捉え、その実質的証拠力について処分証書の場合にする評価のごとく行うという愚を犯したものであるとしかいいようがない。

(2)LINEは、もともと家族や友人との私的な関係における連絡や感情の共有を目的として発達したものであり、緩やかな応答や暫定的反応を許容する非公式性と即時性を本質的特性とする。このため、内容を十分に吟味・検討した上で確定的な意思を表明するのに適した手段ではない。
しかし、利用者の急増により、業務連絡や取引上のやり取りなどの公的場面でも広く用いられるようになった。しかし、規律や責任関係が異なる公的領域における適切な利用ルールは十分に整備されておらず、私的使用の慣行がそのまま持ち込まれる傾向にある。
その結果、メッセージに必ずしも実態や本意を反映していない危うさがある。ちなみに、会話の切れ目ごとに「ありがとうございます。」を繰り返したり、看護師や介護士が、「ごめんなさいね」を連発しながら処置を行う場面が多く見られ、その場合、感謝や謝罪の意が実質的に伴わないまま、関係の円滑化を狙ったその場しのぎの応対に留まることが少なくない。こうした背景から、コミュニケーション全般において、メッセージの意味内容よりも、その場の関係性維持が優先される傾向が強まっているようにも見受けられる。

とも言えるである場合が少なくなく、コミュニケーション全般において、意味よりも「関係」に重きがおかれことが多くなっているようにも思われる。

LINEのやりとりにおいては、特に、即時的な応答を求められる状況や上司と部下のような上下関係が作用する場面においては、その場しのぎ、あるいは当面の状況を取り繕うための暫定的な応答にとどまることが少なくない。
また、書簡などと比べても、送信後の訂正や削除が容易であるという意識が、意思の確定性を希薄にする要因として作用しやすい。

(3)少なくとも、LINEのやりとりでのメッセージの法律的意味の判断については、文字面だけを見て先入感・思い込みにとらわれて理解する愚を犯さないよう、LINE利用の特性を意図的に考慮して慎重にされなければならない。
必ずしも「意思」の存在を他人に対して推測させるに足りるだけの外形とはいえないLINE上のもっともらしいメッセージの文言をもって、ただちに確定的な意思表示が記載されていると解釈したり、処分証書における記載内容のごとく取り扱うような安易な認定判断は、厳に慎まなければならない。
(引用終わり)

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前田 尚一(まえだ しょういち)
弁護士として30年以上の経験と実績を有し、これまでに多様な訴訟に携わってまいりました。顧問弁護士としては、常時30社を超える企業のサポートを直接担当しております。
依頼者一人ひとりの本当の「勝ち」を見極めることにこだわり、長年の経験と実践に基づく独自の強みを最大限に活かせる、少数精鋭の体制づくりに注力しています。特に、表面に見えない企業間の力学や交渉の心理的駆け引きといった実務経験は豊富です。 北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校、北海道大学法学部卒業。

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