裁判官の先入感、偏見、独断との闘い

初出:「The Lawyers(ザ・ローヤーズ)」(アイ・エル・エス出版)2016年6月号
連載『弁護士ほど素敵な仕事はない! 』第5回(後編)
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裁判官の考える真実が当事者双方にとって妥当な解決か

前篇では、独立後間もなくの思いで深い事件として、訴訟外事件を紹介しましたが、地方都市の町弁である私の場合、訴訟事件が事務所経営を支える業務のかなりの部分を占めています。
訴訟事件となると、説得の対象は、まずは担当裁判官ということになります。
裁判官の著作や裁判官に対するアンケートの集計で、しばしば、裁判官らの考える弁護士の訴訟活動の在り方が明らかにされています。しかし、当事者が何と言おうと、真実を明らかにするのはあくまで自分たちであるとの使命感を基本とし、そこに裁判所が手間暇をかけずに行き着くために弁護士の適切な訴訟活動を求めるといった考えが、少なくないように思われます。
そもそも、裁判官が在り方を提示する前提として、裁判官らが、ご自身の判断構造・判断過程を的確に把握されているかについては疑問のあるところです。判断は、意識的な要因ばかりではなく、当の本人がそれに気が付かないまま、無意識的な要因に影響されるものであり、自分の判断過程を、当の本人が客観的に分析することは難しいことです。
しかも、弁護士には、依頼者がいるわけであり、一定の関係性でのあるべき解決像があり、裁判官の考える真実が確定すれば、当事者双方にとって妥当な解決となるというわけではありません。
そして、裁判官が想定する事件のスジとスワリにしても、そこから先入感、偏見、独断が排除される保証は、裁判官自身の技量・心構えに期待するほかないというのが現実です。
真実は一つであると言っても、すべての事実についての証拠が残っているわけでもありませんから、証拠で組み立てられる真実は、あくまで相対的なもので、真実は一定の幅のある概念であるといわざるを得ません。弁護士としては、依頼者との関係性の中で、具体的妥当性を踏まえ、許容される範囲の真実を追求すべく、裁判官の判断過程に有効に働き掛けていくことが仕事ということになるでしょう。

裁判官の考えを変えるのに役立った小道具とは

その過程を物語る幾つかの裁判例を挙げてみたいと思います。
会社の代表者の死亡事故について、保険会社の訴訟外での示談提示額が5927万8720円でしたが、遺族の依頼で訴訟を提起したところ、裁判所の認容額は8158万5280円(遅延損害金を加えた保険会社の最終支払額は、9202万9710円)となった事件を担当したことがあります(札幌地判平成9年1月10日・「判例タイムズ」990号228頁:「会社の代表者の死亡による逸失利益について現実の報酬を基礎として算定された事例」。コロンの後の鉤括弧内の記載は、判決が登載された判例雑誌等に掲載された判示事項の要旨をそのまま引用するものです。以下同じ。)。

交通損害賠償訴訟について、裁判所からは、大量の同種事案を公平・迅速に処理するため、古くから賠償額や過失相殺率に関する基準化が図られてきたことから、争点に関する裁判所及び当事者の認識は、相当程度共通化されており、おおむね1年以内での紛争の解決が図られているとされ、事案の解明、審理がより適正かつ効率的に行われることを期待するとされています(注1)。
そして、大量の同種事案を扱う交通損害賠償訴訟においては、自ずと類型的処理のルールが形成されることになり、同事案の争点については、会社役員、特に小規模会社の役員の報酬の中には、労務対価部分に加え実質的には利益配当部分があるとして、逸失利益の基礎収入からその分を控除すべきであるという実務的取扱いが、既に当時ほぼ確立されていたようです(注2)。
しかし、実際上、労務対価部分を確定するのは著しく困難であって、機械的に一定額が控除されるということになりかねません。この事案でも、担当裁判官は、一定割合控除するのが当然というスタンスであり、和解案として提示された金額は、年収の10%を控除して算定した6653万0848円でした。

しかし、この実務的取扱いが生まれたのは、節税対策のために、役員報酬を多くすることによって経費の範囲を広げようとする同族会社等の実際に着目し、将来の逸失利益の額が過大となってしまう不都合を回避する必要があったからであると考えられ、それは極めて現実的な工夫であったはずです。しかし、そのような議論を展開してみても、担当裁判官には、なかなか納得してはもらえませんでした。

どうしたものかと考えあぐねていたところ、生命保険のセールスレディーに頂戴した販促品の中に、『中小企業社長の収入と資産-「いかに節税するか」から「いかに納税するか」へ』(1994年、日本実業出版社)という冊子があり、そこに中小企業社長の年収総額の平均が2169万円であるとする実態調査が掲載されているのを見付けたのです。
本件の被害者が得ていた年収は960万円です。この冊子を甲第33号証とし証拠として提出したところ、判決は、被害者の現実の収入全てを逸失利益算定の基礎と判断するものとなりました。
しかし、甲第33号証は、判文のどこにも引用されておりませんでした(もっとも、事実認定に必要なものではありませんから、理屈上は、引用になければならないものではないのですが…)。
そして、判文中の説示では、それまでの議論には一切触れられていません。被害者の経歴、稼働状況、代表者を勤めていた各会社の期ごとの数字を拾いあげたその業績を、数ページに渡って整理するばかりで、これらからそうなる理由を説明することもないまま、死亡当時得ていた収入は全て被害者の労務の対価であると評価するのが相当であるとするものでした。
しかし、この冊子を提出した以降の流れ、裁判官とのやり取りから推察すると、この冊子で中小企業社長の年収総額の実態を理解してもらったことが、担当裁判官の判断について決定的な要因となったものである考えざるを得ないのです。

それから10年程後に、これと同種事案を担当し、同様の訴訟活動をした事件(もっとも、被告訴訟代理人が、手強く執拗に反論してきたので、「隠れた剰余金の処分」にも言及する(注3)など手間暇が多くはなりましたが…)があります(札幌地裁平成21年2月26日・「判例時報」2045号130頁:「交通事故で死亡した57歳の小規模な会社代表者の逸失利益について、役員報酬年額840万円全額を労務対価部分とし、70歳まで稼働可能として算出された事例」)。
この判決を登載した前掲判例雑誌の囲み解説で、「裁判例では、…役員報酬の50%ないし90%とするなど一定の割合としたものが比較的多いが……。(中略)。本判決は、……と認めて逸失利益を算定したものであり、実務の一般的傾向より多くの利益を認めた点に特色があるので、実務上の参考として紹介する。」と述べられていることを考え合わせると、これらの事案はいずれも、判文中に現れていない訴訟活動が、結果に影響を与えていたと断定してよいと考えています。

ところで、冒頭に挙げた事案と同時期に担当した後遺障害事案で、自動車共済からわずか54万円の残額支払提示を受け納得しなかった被害者と近親者の依頼を受任、訴訟提起したところ、2300万円を超える支払を受けることができた事件があります(札幌地裁平成9年6月27日判決・「自動車保険ジャーナル」1219号:「近くの横断歩道渡らなかった自転車 重大な過失ではない 過失割合3割 呼吸管理の1級3号者 病院入院の介護料 日額5000円」)。
これらはは少なくとも交通損害賠償事件の死亡事案、後遺障害事案については、訴訟を提起すれば、賠償額は相当増額されることとなるのが通例であり、保険会社・自動車共済と安易に妥協をすべきではない、ということが実感させられた事例でした。これが、以降、交通事故事案の取組についての私のスタンスとなりました。

裁判官の前では役に立たない弁護士のリーガルマインド

ところで、顧問先である土地区画整理組合からの依頼で担当した事件で、仮換地指定がなされた従前地についてその占有者に対する明渡が認められた事例があります(札幌地裁平成9年(ワ)第1672号同10年4月28日判決・公刊物未登載)。

従前地について仮換地指定を行なわれたにもかかわらず、建物等の所有者から移転または除却について協力が得られない場合が発生することがあります。土地区画整理事業の施行に当たっては、建物等の移転または除却が円滑に進まなければ、当然事業工事の進捗に大きな影響を与え、事業全体が遅延する重大な原因となります。
施行者は、建築物等の移転除却をする権限があるけれど、市町村長の認可を受けなければならないこととされており(土地区画整理法77条1項、6項)、住民である旧所有者とのトラブルを嫌う市町村長が認可するなどといったことは期待できないのが実情です。
そこで、占有者が説得・交渉に応じなければ、施行者としては、民事訴訟を提起せざるを得ないということになります。

このような場面について、「土地区画整理法100条の2の規定により施行者が管理する土地については、施行者は、所有権に準ずる一種の物権的支配権を取得し、右土地区画整理事業の目的にそって維持管理し、又は事業施行のために必要な範囲内において第三者に使用収益をせしめることができるものと解すべきものであるから、第三者が権原なくして右土地を不法に占有する場合には、これに対し右物権的支配権に基づき右土地の明渡を求めることができるものと解するのが相当である。」とする最高裁判決があります([公共施設予定地]の事例)(注4)。
そして、土地区画整理組合から顧問を依頼されるきっかけとなった事件として、仮換地指定の対象となった従前地(保留地予定地)の占有者に対する明渡請求について、この最高裁判決にのっとった判断により認められた事件があります(札幌地裁平成9年6月26日判決、札幌高裁平成9年10月31日判決・後掲「組合区画整理」59号32頁)。

ところが、続いて依頼されたこれと同種の事案は、仮換地の指定を受けた従前地である係争地のうち、一部は道路予定地とされていましたが、それ以外の部分は、別の従前地の仮換地として指定を受けていたところ(いわゆる「裏指定」)、使用収益開始日が定められていないというものでした(いわゆる「追而指定」)。
担当裁判官は、土地区画整理法100条の2の見出しが、「(仮換地に指定されていない土地の管理)とされていることにこだわり、係争地のうち後者の部分について、使用収益開始日が定められていないとしても、仮換地に指定されている土地であることから、同条所定の土地と扱うことを躊躇したのです。
土地区画整理などの分野で著名な弁護士の論稿を見付けましたが、要するに、「追而指定」などしないで、効力発生日を即使用収益開始日とし、仮換地指定を受けた者に原告となってもらえばよいと論じ、施行者自身による明渡請求ができないことを前提とした対処法を示すものであって(注5)、かえって当方に不利なものでした。
しかし、事業の進捗状況をみながら、「使用収益開始日」を「追って通知する」としておくことは、実務上の必要が高いものです。また、仮換地の指定を受けた人に原告になってもらって裁判を起こすというのは面倒であるばかりか、協力が得られない場合には、解決自体ができないことになってしまいます。こういった実態を法律論として構成し、説得を試みましたが、担当裁判官は抵抗するばかりです。

ところが、次のとおり、社団法人全国土地区画整理組合連合会(現・公益社団法人街づくり区画整理協会)が発行する雑誌『組合区画整理』の中に、「仮換地指定及び使用収益の停止の効果について」という質疑欄があり、そこで、建設省都市局区画整理課が、当方と同一の結論を解説しているのが見付かったのです(14号43頁以下[45頁])。

「仮換地指定又は使用収益の停止により使用収益することのできる者のなくなった宅地については、換地処分の公告日までは、施行者が管理することとされています(法第100条の2。このような土地は施行者管理地と呼ばれています。)。施行者管理地の具体例としては、公共施設予定地、保留地予定地、立体換地建物の敷地の予定地といったものが挙げられるほか、仮換地として指定された宅地であるが使用収益開始日が別に定められているため従前地の宅地の所有者等による使用収益が開始されておらず、かつ、その仮換地として指定された宅地についても別途仮換地が指定されている場合における当該仮換地として指定された宅地も、施行者管理地となります。」(傍点、傍線は筆者)

この雑誌の該当箇所を、早速、甲第77号証として提出したところ、担当裁判官の抵抗は一瞬にして収まったのでした。もっとも、ご覧のとおり、この解説は結論を示すだけで、裁判官が抱いていた前記疑問に何らの回答を示すものではありません。ただ、建設省都市局区画整理課が解説するものでした。
ふと、司法修習中に訟務検事経験のある裁判官から、行政訴訟を起こすのであれば、理屈ばかりを振り回さず、訓令であろうと通達であろうと何か裏付けとなる国家機関の法令解釈に関するものを探すことに注力せよ、それを提示すれば、とっかかりになる場合がある、と教えられたことを思い出しました。

こうして、全面勝訴の判決を獲得することができましたが、判文の説示は、それまでの議論には全く触れることなく、「本件係争地を従前の宅地として所有していた被告及びAは、仮換地指定処分を受けたことにより、本件係争地について使用収益権限を喪失しているところ、本件係争地のうちAが仮換地として指定を受けた部分は、当該部分について同人が使用又は収益を開始することができる日が未だ定められていないから、同人は使用することができず、また、本件係争地のその余の部分は、道路予定地とされているから、本件係争地は、結局、仮換地の指定処分により使用収益をすることができる者のなくなった従前の宅地に該当することとなる。したがって、土地区画整理法100条の2により、換地処分がなされるまでの間、施行者たる原告が管理するものとなると解される。」(傍線筆者)とし、本件係争地の全てが当然のごとく土地区画整理法100条の2所定の土地に当たるものとした上、その後に続く部分は、前記最高裁判決の判示をほぼそのまま引用して「そして、同条の規定により施行者が管理する土地については、(中略)……であるから、権原なくして土地を占有する者に対しては、右物権的支配権に基づき明渡しを求めるとともに、明渡しを争う者に対しては、使用収益する権利がないことの確認を求めることができるというべきである。」とするものでした。
また、前記事例の場合と同様、判文の中では、この雑誌を証拠として引用されてもいません(もちろん、事実認定に必要なものではありませんから、理屈上は、引用になければならないものではないのですが…。ただし、一件記録の中に、議論を展開した準備書面と甲第77号証は綴られており、上訴審の目には入ることになります。)。

行政機関の解釈(公定解釈)は裁判所を拘束するものではないということは、いうまでもないことのはずですが、一定の権威的裏付けが存在すること自体が、個々の裁判官にこの上ない安心感を与えるものなのでしょう。
交通損害賠償訴訟で、「…。裁判手続での後遺障害の認定は自賠責保険の後遺障害等級認定に拘束されるものではなく、裁判所が、訴訟に現れた全証拠から自由な心証に基づいて認定・判断するものである。しかし、……、裁判所は、被告からの十分な反証のない限り、同様の等級を認定することが多く、効率的な審理を行うことが可能となる。」とされますが(注6)、事実認定の場面で、本件とは次元の違う場面ですが、背景においては全く同様の意識構造ということができるでしょう。

要するに、生身の裁判官を説得する上で、一番信用されないのは、弁護士の自称リーガルマインドに基づく法律の議論というほかありません。このことは、司法修習期間の短縮のためか、要件事実教育がなくなったとすると、共通言語がなくなり、益々その傾向は強くなると予想されるところです。

相場以上の賠償金を獲得した政治家の名誉毀損訴訟

政治家の名誉毀損事件を扱ったことがあります(札幌地裁平成11年3月1日判決・「判例タイムズ」1047号215頁:「札幌市議がパチンコ店の出店工作をした旨の新聞記事について、名誉毀損による損害賠償として200万円を認容した事例」)。

当時、「実務上は、新聞、週刊誌等のマスコミによる名誉毀損の場合、だいたい慰謝料として100万円が認められるのが相場といった感覚があるように思われる。」などと裁判官経験者から指摘されており(「100万円ルール」)(注7)、この事案は、相場より多くの賠償額を獲得できた事例です。もっとも、徹底した訴訟活動をしたことはもちろんですが、一旦結審となりかけたが、記事を執筆した記者ら等被告申出の証人らの尋問が繰り広げることとなった事情等も反映しているように思われます。

なお、その後、裁判官などから考慮要素の定型化を提唱する論稿(注8)が発表された後、平成13年には報道機関などを被告とする名誉毀損訴訟において、500万円を超える高額な慰謝料を認める裁判例が現れるようになり、平均額も424万円となったものの、平成14年以降の慰謝料の平均額は、それぞれ150万円弱、平成22年以降は100万円強となり、再び低額に抑えられる傾向にあるとのことです(注9)。
それだけに、名誉毀損による損害賠償の一般的傾向にとらわれず、訴訟ごとに、個別な対応を工夫する必要があるように思われます。

もっとも、このような場面の名誉毀損訴訟では、損害額の多寡は問題ではないのが通例です。本誌2014年3月号の特集「「ウソ」をつかない経営のために」でも言及しましたが、新聞記事が掲載された当時、依頼者は市民から「◎◎新聞がウソを書くはずがない。ウソであるなら証明してみろ。」と詰め寄られたのでした。
実際にありもしなかったことを証明することなどそう簡単にできるはずもないのですが(これを「悪魔の証明」といいます)、世間が、虚偽を鵜呑みにして信じ込み、存在しない事実が一人歩きし始めると、いつのまにかそれが真実であるかのような地位を確立してしまうのが実情です。
依頼者は、2、3の弁護士に相談したが断られたとのことで、肩を落として来所された。もし泣き寝入りしそのまま放置していたなら、その政治生命に壊滅的な打撃を与えたままとなったに違いありません。

勝訴が判例雑誌掲載以前に逆転判決が出て狼狽えたことも

ここまで自慢げに事件を紹介してきましたが、担当した事件がいつも勝訴ばかりというわけではありません。

ゴルフ会員契約上の債務不履行に基づく解除を理由とする預託金の返還請求を求め訴えを提起したところ、第1審で全面勝訴となりました(札幌地裁平成10年1月29日判決・「判例時報」1668号123頁、「判例タイムズ」1014号217頁:「ゴルフ場使用について、特別ゲスト枠の廃止及び予約制度の導入がなされたことを理由とする会員からのゴルフ会員契約解除に基づく保証金等の返還請求が認容された事例」、「予約不要のプレーシステム及び特別ゲスト枠の制限を内容としていたゴルフ会員契約において、これを取り止めたことはプレーの仕組みを基本的に変更するもので債務不履行に当たるとされた事例」)。
ところが、何と、この第1審判決が前掲判例雑誌で紹介された頃には、もう既に、第2審で逆転敗訴の判決が言い渡されていたのです(札幌高裁平成11年2月9日判決・「判例時報」1693号82頁、「判例タイムズ」1087号203頁:「ゴルフ場使用について、特別ゲスト枠の廃止及び予約制度の導入はゴルフ会員契約において保証されるべき本質的中核的な価値を有するものとはいえないとして、特別ゲスト枠の廃止及び予約制度の導入がされたことを理由としてゴルフ会員契約の解除をすることは許されないとされた事例」、「ゴルフ場経営会社が「特別ゲスト枠システム」及び「予約なしのプレーシステム」を廃止しても、会員がゴルフ会員契約を解除して保証金の返還を請求することはできないとされた事例」)。

ところで、第1審判決には仮執行宣言がされており、年会費振込みの預金口座について債権差押えを試みたものの、すぐに払い戻しているらしく空振り。たまたま、夜、女房と行った映画館で、某ホテルがゴルフ場運営会社とパック旅行を組んだとのパンフレットを見付け、このホテル運営会社を第三債務者として債権差押をし、合計250万円ほどの取立てに成功していたのです。
そのため、第2審では、逆転敗訴判決をいただいたどころか、仮執行の原状回復及び損害賠償の申立てが認められ、依頼者と共に、逆に強制執行されないように慌てふためいたのでした。

なお、この判決を登載した前掲判例タイムズの囲み解説では、「本判決は、ゴルフ会員契約において、特別ゲスト枠システム等の廃止が契約解除をなし得る程度の債務不履行に該当するとは認められないとしたものであるが、1、2審で判断が分かれた事例であるので、今後の同種事案の処理上参考となるものとして紹介する」と、とても淡泊に述べられています。
しかし、私は、今でも、第1審の若手裁判官はゴルフを趣味にしていたが、第2審の裁判長はゴルフには全く関心がなかったのではないかと邪推しております。
ともあれ、経験則といわれるものは、抽象的に語る場合はともかく、見える範囲(識見)や経験によってその具体的内容は様々であり、そのレイヤーでは裁判官の数だけがあると想定した方が良さそうです。

 

 

1 東京地裁民事苦痛訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率における過失相殺率の認定基準(全訂5版)』(別冊判例タイムズ38号)1頁[平成26年、判例タイムズ社]
2 当時参考にした文献として、大工強「役員の休業損害及び逸失利益算定(「平成5年度における東京地方裁判所民事27部の裁判例の動向-法人役員の逸失利益と企業損害」)」日本交通法学会編『人身賠償・補償研究 第3巻』[1995年、判例タイムズ社]
3 江頭憲治郎『株式会社法 第2版』410頁(2008年、有斐閣)
4 最高裁昭和58年10月28日第二小法廷判決・判時1095号93頁、集民140号249頁
5 大場民雄『土地区画整理ーその理論と実際ー』210頁(新日本法規、1995年)、同『続土地区画整理ーその理論と実際ー』29頁(新日本法規、1997年)、同「新版縦横土地区画整理法上」424頁註(5)(新日本法規、1995年)
6 前掲別冊判例タイムズ11頁
7 升田純「名誉と信用の値段に関する一考察」NBL627号(1997年10月15日号)42頁以下)
8 塩崎勤「名誉毀損による損害額の算定について」判例タイムズ1055号(2001年5月15日号)4頁、司法研修所「損害賠償請求訴訟における損害額の算定」-平成13年度損害賠償実務研究会結果要旨」判例タイムズ1070号(2001年11月15日号)4頁
8 千葉県弁護士会編『慰謝料算定の実務 第2版』71頁以下[平成25年、ぎょうせい]

 

 

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『法律』に興味をもって読んでもらえるように執筆した記事になります。
裁判や法律にはルールがありますので、スキームを組み立てアプローチの方向を適切に見極めないと望んだ結果を導く事ができないのです。
弁護士の仕事について、また弁護士に相談しようと思った時、どうしたら法律を味方につけられるのか、という気づきやヒントになれば幸いです。

前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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