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最終回 裁判に〝負ける〟方法

月刊「財界さっぽろ」2019年01月取材

会社を守る法律講座

紛争は事実の積み重ねですが、その「事実」も人の見方で異なるため「真実は1つ」と絶対視はできません。紛争もその解決の取り組みも人間の営みであり、常に動き、成長・退化を繰り返します。

話が抽象的なので、裁判に負けるであろう顧客のタイプを2つあげて説明しましょう。

①できないことをできるはずだと譲らず、〝不可能の実現〟を求め続けるタイプ。

自分自身の確信があって当然ですが、紛争の場で大事なことはその場面において誰に決定権があるかです。正しい・正しくない、良い・悪い、好き・嫌いといった自身の価値観とは別に、世間一般にどのようにとらえられるかを踏まえ、解決策やプロセスを考える必要があります。

②〝勝ちの保証〟を求め、得られなければ行動しないタイプ。

人間社会の出来事で「起きる」「起きない」に必ずはありません。確率を導いても無意味であり、まずは取り組むこと、それによって流れが変わり、出来事が変化することを理解しなければなりません。

ここからはケース別に考えます。

例えば、今は恵まれない立場だが、目の上のたんこぶがいなくなれば自分は活躍できると「好機到来」を備えて待つというケース。ご本人に頑固な父親がいて、いつまでも子ども扱いを受けている、共同経営者のもう一人がナンバーワンで、自分の出番がないと訴える、というシーンが想像できます。

力関係の現状はともかく、何故そうなのか原因を突き詰めておかなければ「好機」は到来しません。

歴史好きの人は「鳴かぬなら『殺してしまえ』『鳴かせてみよう』『鳴くまで待とう』ホトトギス」と織田信長、豊臣秀吉、徳川家康を引き合いに出し、自分は家康の「待ちタイプ」の人間と自己評価する方もいます。

家康は温厚で忍耐強く、ただ待っていたわけではありません。現状で正面からぶつかれば、返り血を浴びるので、自分の活躍できる時代を自身でつくり続けたという説明が正しいように思います。大きな戦略だけでなく、そのつどの戦術も緻密だったようで、江戸城を築造する人夫の働きをよくするため、食事の塩分を多くして食欲を沸かせ、体力を付けさせたという話しを聞きました。ちなみに大坂(大阪)商人は、経費節減のため使用人の食が進まぬよう薄口にしたとのこと。関東は濃い味、関西は薄味という食文化の違いはこうしてできたという説もあります。

今回は基本的な考え方や姿勢のお話でした。物事に取り組むにはマインドが重要ですが、知識やスキルも必要です。法律問題も同様の構図であり、そんなことを考えると、より広汎な範囲で専門的なお話をご紹介していけそうです。

次回からは、経営者に限らず、より多くの方に向けてコラムを執筆させていただきます。今後もよろしくお願いいたします。

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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