裁判での勝敗と,意外な裁判所のルール

まずは,あなた自身が,次のような場面に遭遇したとイメージして下さい。

 

昔すごく仲が良かったのに,ある出来事をきっかけにすっかり仲が悪くなってしまった人を具体的に思い浮かべて見てください。

あなたは,この相手とこじれています。相手から,突然,100万円を返せ,と裁判を起こされたのです。

お金を返す筋合いなど全くないのです。まったくの言い掛かりなのです。
言い掛かりなので,相手の手元には証拠がないのですが,あなたも手元にも,一気に相手をたたきのめす証拠がないのです。

 

次の二つの場合を考えてみてください。

1 全く借りたことはない場合。
2 確かに借りたことはあるけれど,とっくの昔に返してしまったいた場合

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「立証責任」・「証明責任」

裁判は,言い分を闘わせる場です。
裁判所は何も分からないところから,勝ち負けが決まっていくわけですから,決め方にルールがあります。

「立証責任」とか「証明責任」という言葉を聞いたことがあるでしょう。
裁判では,証明をしなければ勝てないというということは,誰でも知っていることです。

このことをもう少しプロっぽく説明しようと思います。
ただ,大学の先生には不正確だと叱られてしまうかも知れませんが,キモの理解を分かりやすく説明することを本分にしてお伝えします。

裁判は,法律で裁かれるわけですから,争いがある限り,原告,被告は,法律で定められた事実を主張し,証明することになります。

ある事実があったのか,なかったのか分からない場合(真偽不明),裁判所は,その事実はないものと扱い,勝ち負けを判断することになります。

その場合,一見当たり前のようですが,
「立証責任」のもっとも基本的なキモは,《自己に有利となる事実は,有利となる側で証明しなければならない》ということです。

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さて,例題に戻ります。

1.100万円を返せ,と裁判を起こされたけれど,全く借りたことがない場合

被告のあなたは,借りたことはないと回答すれば,それで,あなたは勝ちとなります。

この例題では,あなたも相手も証拠がない。つまり,原告である相手があなたに貸したという有利な事実を証明できないのですから。

あなたは,「借りていない」ということを証明する必要はありません。 証明の対象は,原則として,事実があったことです。

「悪魔の証明」

例えば,「どんな癌でも治すことができる温泉がある」ということが争いとなった場合,

そのような温泉がないことを証明するのは殆ど不可能です。世界中の温泉全てについて,直せない癌があることを証明し尽くさなければならないからです。
しかし,そのような温泉があることを証明するのは,一つ具体例を挙げればすむのです。

事実がないことを証明することを求めれることは,このようにほとんど不可能なので,悪魔に無理を強いられるというイメージで,
「悪魔の証明」といわれています。例外的にこのような証明が求められる場合もありますが,とんでもなくまれな場合です。

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では,
2.100万円を借りたことはあるけれど,とっくの昔に返してしまっていた場合はどうでしょう。

とりあえず,正直者のあなたは,100万円を借りたことはあるので,100万円を借りたことを認めることでしょう。
そうすると,相手が,借用証書などこのことの証拠が全くない場合であっても,あなたが認めた以上,このことに争いがないものとして,裁判所は,「あなたが100万円を借りた」こととして扱います。

さて,あなたは,「でも,全部返したよ」と主張し,徹底抗戦をすることになるでしょう。
しかし,例題の設定では,あなたは,領収書など,借りたお金を全部返しことを証明する証拠を持ち合わせていないのです。

あなたは,あなたにとって,有利な事実を証明することができない。
もちろん,相手は,返してもらっていないことを証明する必要もない。
つまり,裁判所にとって,あなたが100万円を返したかどうかは,真偽不明となる・・・・・・。

もう,お分かりでしょう。

裁判のルール上,あなたは負けるのです。

このあたりを,もう少し,理屈っぽく考えてみたい方は,かつて私がロースクールで教えていたときの資料をご覧ください。こちらです。

 

当事務所の実績・実例[解決事例]こちらからどうぞ。
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裁判や法律にはルールがありますので、スキームを組み立てアプローチの方向を適切に見極めないと望んだ結果を導く事ができないのです。
弁護士の仕事について、また弁護士に相談しようと思った時、どうしたら法律を味方につけられるのか、という気づきやヒントになれば幸いです。

前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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