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第43回 〝白黒つけない〟パワハラ対策《前編》

月刊「財界さっぽろ」2015年02月取材

会社を守る法律講座

今回は、前・後編にわたり某企業の部長A氏からの相談を紹介します。対岸の火事ではない「パワハラ」がキーワードです。
◇      ◇
A氏 「パワー・ハラスメント」は「セクハラ」と同様、加害者本人だけでなく会社も損害賠償責任を負うのでしょうか。

前田 はい。使用者責任(民法715条)や職場環境配慮義務違反(労働契約法5条)に基づきます。ちな みに厚生労働省が2012年1月に公表した「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」では「職場のパワーハラスメントと は、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境 を悪化させる行為」と示されています。

A氏 しかし、裁判例をみても損害賠償義務が発生する場合とそうでない場合があり、また、その基準が「…を総合考慮のうえ」とか「…職務上の地位・権限を逸脱・濫用して、社会通念に照らした客観的な見地から見て」などと抽象論ばかりでよくわかりません。

前田 そうですね。ハラスメントの範囲は曖昧です。その一方で、職場であっても上司によるものではないとか、陰湿な非有形力によるものが「パワハラ」と区別された「モラル・ハラスメント」(モラハラ)も社会問題化しており、違法対象は拡大されつつあります。

裁判所は社会問題化されたことを扱うとはいえ、その本来の役割は実際に訴訟となった特定の事案について事後的な客観的判断によって白黒をつけることです。つまり、裁判所に日々現場で起こる事案の明確な判断基準の提示を期待することが間違っているのです。

A氏 それでは予防も解決もできないじゃないですか。

前田 いいえ。むしろ企業は白黒つけようとする発想を捨てたほうがいいです。単に違法かどうかという面 ばかりに目を奪われず、加害者対被害者という単純な図式で捉えられ一人歩きしかねないトラブルをどう回避するかが重要です。

ハラスメントは被害者側の主観 に大きく左右されることは否定できません。また、パワハラはメンタルヘルス問題にもつながり易く解決の難しさがあります。しかもブラック企業と烙印を押さ れてしまうと、人材採用も妨げることにもなりかねません。だからこそ綿密に対策を練る必要があります。

A氏 当社では、労務コンサルタントの指導を受けながら、従業員対象にセミナーを実施したり、相談窓口を設置したりして事前措置に万全を期しているのですが…。

前田 もしやパワハラ問題が現実に発生したのではないですか。その解決策も含め、根本的に考え方を改める必要がありそうですね。その点は次回に。

 

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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