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第54回 〝有罪の推定〟が働けば、白でも黒に

月刊「財界さっぽろ」2016年07月取材

会社を守る法律講座

企業や政治家の不祥事報道が繰り返されています。最近では「舛添知事問題」が注目の的ですが、それらの真偽にかかわらず、「有罪の推定」が働くと、大変な事態に陥ります。

名誉棄損

過去にこんな事例があります。1996年6月某日、札幌市議会議員が当事務所を訪れました。北海道新聞に「札幌市議が出店工作か」の見出しで、同議員のパチンコ店出店にかかわる金銭疑惑が報じられたのです。同議員は「どこに事情説明に行っても『道新がウソを書くわけがない』『記事がウソだというのなら証明しろ』と責められる」と話し、2、3人の弁護士に相談したが断られたと憔悴していました。

説明責任を果たそうにも弁解することすら許されない。金銭をもらった事実がないのだから、証拠を示すこともできない。事実無根を証明するには、事実があった可能性を全て否定しなければならないのです。これは不可能に近く、無理なことを強いられるという意味で「悪魔の証明」と呼ばれます。

その後1カ月足らずで北海道新聞に対する名誉毀損の訴えを提起しました。2年半余りの闘いの結果、裁判所は道新側に200万円の賠償を命じました(札幌地裁平成11年3月1日判決・「判例タイムズ」1047号215ページ)。

同議員の名誉は回復しました。訴えを早期に提起したことで、疑惑も晴れつつありましたが、判決後、間もなく引退し、その後2年余りで亡くなりました。札幌市政に投入するはずだった精魂を、訴訟に使い果たしたと言えます。

マスコミ報道の歪曲

また、報道内容が誇大化、歪曲される場合もあります。雪印乳業がその代表です。集団食中毒事件、牛肉偽装事件と不祥事が続く中、徹夜の会議を終え会議室から出てきた社長は、記者から「寝ないで待っていたんだ。何か話をしろ!」と浴びせられ、うっかり「私は寝ていないんだよ!」と発言したそうです。この1コマが失言として大きく取り上げられ、雪印企業グループ全体の解体・再編に加速をかけました。コントロール不能となる原動力は「目に見えない大衆の声」だったのです。

私も類似経験があります。孤軍奮闘の状況にあった事件で、某テレビ局から「報道されていない実情をインタビューし、客観的に報道したい」と個別取材を申し入れられ、それに応じました。ところが、実情を話した部分は全てカットされ、礼儀として世間を騒がせる事態となったことを詫びた部分だけが、冒頭の巧みなナレーション、風景画像とつなぎ合わされ、それまで報道された疑惑を認めた謝罪にも見て取れるような映像が放映されました。理不尽な報道内容とされないよう、慎重なマスコミ対応のノウハウを確立する契機とはなりましたが、率直に言うと今でも悔しい思いが残っています。

 

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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