月刊「財界さっぽろ」2017年04月取材
会社を守る法律講座
内容証明郵便のメリットを知る
「内容証明郵便」という言葉を聞かれたことがあると思います。
内容証明郵便は普通郵便に比べ、相手方に対するインパクトが大きいとされ、重要な内容の通知などに活用されています。しかし、実際はそのような効力はあまり期待できません。ラブレターを送る場合、「内容証明郵便」だからといって、よい答えが返ってくる訳ではないことを考えればご理解いただけると思います。
昔は内容証明郵便を最高裁判所内郵便局から送り、あたかも最高裁判所からの郵便であるかのように見せかけるという姑息な手が使われたこともあったようです。
では、なぜ「内容証明郵便」を利用すると有用なのでしょうか。
「内容証明郵便」とは、文書の内容と差出日(発送した日)を郵便局が証明する郵便です。何か紛争が起きると「言った・言わない」「聞いた・聞いていない」ということが争いの基になることが多く、事実関係や言い分などを明らかにしておくために利用されるのです。
そして、例えば債権が時効によって消滅するのをストップさせる(時効の中断)場合や配達日が重要となるような場合は「配達証明」というオプションをつけることが不可欠です。売掛金などの債権を譲り受けた際なども「配達証明付きの内容証明郵便」を使うのが適切です(「配達証明」はオプションとはいえ、これをセットでおこなうのが通例です)。
目的に応じた内容こそが大事ということになりますが、その前に基本的なルールを説明しておきましょう。
●縦書きと横書きで異なりますが、縦書きの場合、用紙1枚は20字×26行以内で作成します。
●郵送用以外に、自分と郵便局での保管用に同じもの3通を郵便局に提出してください。
使用文字や字句の訂正など他にもルールがありますが、文房具屋で売られている内容証明郵便セットを購入し、同封されている説明書に従って進めば、初めての方でも十分対応できます。
ほかにも電子内容証明郵便サービスというのもあります。
料金ですが、書留郵便料金(430円)と通常郵便料金(定型25グラムまで82円)に加え、内容証明料がかかります。内容証明料は、文書1枚なら430円で、1枚増すごとに260円ずつ加算されます。配達証明の加算料金は310円です。配達証明付きの内容証明郵便を1枚出すと、合計で1252円かかることになります。
体裁だけではなく、実践的な内容証明を
さて、それでは本題です。目的に応じた内容こそが重要であるということを例をあげてご説明しましょう。
下の文例1をご覧ください。店舗を貸した家主(貸主)が、家賃を溜め込んだ店子(借主)に滞納家賃を請求する場面を想定した文面です。老婆心ながら忠告すると、家賃催促のために鍵の交換や張り紙など一定の行為をすることは違法ですので、注意してください。
文面を見ると、延滞賃料を請求する例としては特に問題はありません。しかし、この内容証明郵便を送っても支払いがなされない場合を想定しておかなければなりません。
文例は店舗ですが、一般的な賃貸アパートやマンションも例外ではありません。
「住」は、衣食住という社会生活上最低限確保すべき住まいであり、本来であれば家賃は最優先して支払うべきものです。その家賃を3カ月も滞納しているような場合、今後もきちんと支払いながら、かつ滞納分も支払うのは、もはや不可能という場合も少なくないでしょう。
そのまま家賃の不払いを放置しておけば店子(入居者)はますます支払いができない状況となります。無論、次の引っ越し先の敷金や前家賃を用意できないほど困窮すれば、居座り続けるということになりかねません。家主としては「空室になるよりはマシ」と思うかもしれませんが、最悪の場合、別の賃借人に貸せば得られたはずの収入を自ら捨ててしまうことにつながるのです。
そこで、家賃の滞納額が増えている場合は、家賃の回収ではなく、いかに早く明け渡しに応じさせるかを検討するべきです。どのタイミングで明渡しを求めるかも考えた上で対応する必要があります。
こうしたことを踏まえると、文例1では不十分といえます。なぜなら賃貸借契約が解除されなければ、賃料を滞納する店子であっても明渡しを求めることはできないからです。したがって、法律的に明渡しをさせるためには、解除の効力を発生させる必要があります。
ただ、文例1の催告書を前述した内容証明郵便の方法で送っておいて、もし支払いがなければ、改めて賃貸借契約を解除する通知を送るということも考えられますが、二度手間であるばかりか、一度〝嫌な〟書面を見ている店子が今度は受け取らないケースもあります(その場合、別の法律的知識が必要になってきます)。
実際、専門家といわれる方に文例1の内容証明郵便を送ってもらった家主が、家賃を払われずに明渡しにも応じないと私のもとに困り果てていらっしゃる方も少なくありません。結局、かなり面倒な状況になった上、二度手間をしなければならないことになるのです。
では、文例2をご覧ください。どこが違うかわかりますか。2行付け加えただけで、もし催告どおりの支払いがなければ、自動的に賃貸借契約が解除される文案に変貌できるわけです。ただし、賃貸借契約の中で賃料の支払いを1度でも怠ったら解除できるなどと規定していても、賃貸人に一方的に有利な規定は無効とされますので、慎重に対応する必要があります。
内容証明郵便は、有効に活用できる定番のツールです。ただ、体裁だけではなく内容についても、法律的な裏付けが必要なのです。
失敗例(上)と成功例(下)。督促と同時に、解約の旨も一文をいれることが重要なポイント