民事裁判の仕組み“権利のための闘争”に勝つ方法
この解説は,創設されたばかりの北海道大学法科大学院(ロースクール)で,実務家教員として,“標準3年コース”の学生を対象とする民事法基礎ゼミ(必修)を担当した際に用いた資料を再生したものです。
蛇足ですが,当時現場に関わった者の個人的意見ですが,法曹実務家の養成について改革自体は,当時想定していた展望とは,大きく乖離した感を否めないところです……。なお,当時のことは,拙稿「漂流するのか法学未修者」(『法学教室』№295 特集「法科大学院で学ぶ」)もご覧ください。
【事例検討】:双方証拠がない場合の勝敗如何???
甲は、乙に、平成8年12月14日、平成9年12月14日に返すという約束で100万円を貸したとして、その返済を求める裁判を起こした。
甲、乙は次のように争ったが、争いのある部分については真偽が不明のまま結審してしまった。
1 乙は、「借りたことはない。」と反論。
2 乙は、「甲の言うとおり、100万円を受け取ったが、借りたものではなく、甲の仕事を手伝った報酬金である。」と反論。
3 乙は、「甲の言うとおり、100万円を借りたが、返済をした。」と反論。
4 乙は、「甲の言うとおり、100万円を借りたが、返済をした。」と反論。
これに対し、甲は、「乙の言うとおり、100万円を受け取ったが、別の売掛代金分として受け取ったものであり、貸金の返済ではない。」と再反論。
5 乙は、「甲の言うとおり、100万円を借りたが、甲の仕事を手伝った報酬金100万円と相殺する。」と反論。 │
●AとBとの会話
A:「お前、2万円払えよ。」 請求の趣旨
B:「お前に払う筋合いはない。」答弁
A:「去年の年末に先月末までに返す約束で2万円貸しただろう。」 請求原因
B:「カネなんか借りてないよ。」 否認
A:「あの日、お前泣きながら2万円貸してくれ、と言っただろう、これがそのときの借用書だ。」立証
B:「思い出した。返しただろう。」 抗弁
「ほら領収書もあるぞ。」立証
【理解を深めるために】
(1) 裁判で勝つためには、法律の効果(権利の発生・障害・阻止・消滅)によって利益を受ける側が、その法律の要件を主張立証しなければならない(「主張責任」、「立証責任」)。
そして、その要件(「要件事実」)は、法律の各条文に規定されている、とされている(「法律要件分類説」)。
* 主 張=言い分
* 立 証=裏付け(「証拠」)
(2) 相手方の主張に対する認否
ア 「認める。」
イ 「否認する。」
ウ 「不知。」、「知らない。」
(3) 当事者の主張
請求原因(原告)→抗弁(被告)→再抗弁(原告)→再々抗弁(被告)・・・・・・
ザックリとイメージで理解したい方は,
「立証責任・『証明責任,悪魔の証明』
裁判での勝敗と,意外な裁判所のルール」
ダイナミックな裁判所の判断プロセスに関心がある方は,
「裁判官の先入感、偏見、独断との闘い」
当事者のタイプという視点からは,
「裁判に〝負ける〟方法」
をそれぞれご一読ください。