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第3話 不貞行為の代償。〝時間差時効〟の落とし穴

月刊「財界さっぽろ」2019年04月取材

生活に潜むリーガルハザード

不倫相手へ請求できない?慰謝料の誤解

2019年2月19日、最高裁判所は判決で「夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対し、特段の事情がない限り離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」との判断を示しました。

翌朝の各紙の見出しは「不倫相手には請求できず」「離婚慰謝料で最高裁初判断」と報じられました。離婚の原因となった不倫相手に、なぜ慰謝料請求ができないのか疑問を持った方が多いようです。

ただ、最高裁は離婚の原因となった不倫相手に対し、離婚したことについての慰謝料を請求できないと断言したわけではありません。

そもそも離婚に関する慰謝料は2種類あります。

離婚原因たる個別の有責行為により精神的苦痛に対する損害の賠償(離婚原因慰謝料)と

離婚により配偶者の地位を失うことから生じた精神的苦痛に対する損害の賠償(離婚自体慰謝料)です。

それぞれ請求可能ですが、今回の判決で用いられた「離婚に伴う慰謝料」はを差しています。この慰謝料は、本来、夫婦間で決めるべき事柄である「離婚」そのものにフォーカスしたものです。

例えば、離婚によって経済的、精神的に厳しい状況に追い込まれた妻に対し、そこで生じた不利益を慰謝料で是正するという構図です。つまり、不貞行為の相手方に対する請求は「離婚させることを意図した上で、婚姻関係に対する不当な緩衝などによって夫婦を離婚に至らしめた」といえるような特段の事情がある場合に限られます。 これに対しては個別の有責行為を問題とするわけですから、そのような制限はありません。

 

 不定行為解消後も危険、時効にタイムラグ

では、なぜ最高裁はだけを取り上げて判断したのか。いずれの慰謝料請求も3年で時効となって消滅しますが、は個々の不貞行為がはじまった時点から、②は離婚成立の時からカウントとなります。この事件では、相手方に慰謝料請求をした時点で、不貞行為が解消されてから既に3年以上経っていたため②を請求したのです。

前述の記事には「今回は不倫慰謝料の請求権が時効(3年)で消滅していたため、時効が成立していない離婚慰謝料が争点になっていた」といった趣旨の説明がされていましたが、離婚に関する慰謝料が2種類あるということを理解していなければ、この説明だとわかりにくいですね。また、読者の多くは見出しだけを見るわけですから、きちんと報道されていたとしても誤解を生じかねません。

少なくとも、自分の現実に降りかかる法律問題についてはきちんと専門家に相談しないと、後悔することになりそうですね。

前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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