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なぜ経営者だけが退場させられるのか――問題は不祥事ではなく、その前の判断にある

このページは、
旧稿『なぜ、経営者だけが退場させられるのか
――市場が「突出した存在」を処理する構造と、判断の法務』
を改訂したものです。

会社は残る。

制度も残る。

それでも、
経営者だけが席を立たされる瞬間があります。

市場は意思を持ちません。

しかし、
情報・統治・説明責任が集中する現代では、
「一人の顔を持つ存在」が、
最も処理しやすい対象になります。

問題は、
不祥事そのものだけではありません。

その前の段階で、
どこまでリスクを認識し、
どこで止まる判断ができたかです。

なぜ、経営者だけが退場させられるのか
――市場が「突出した存在」を処理する構造と、判断の法務

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不祥事、業績悪化、統治改革、世代交代。
理由はさまざまに語られますが、結果は驚くほど似通っています。

会社という器は存続し、制度も修復され、株式市場も何事もなかったかのように回り続ける。 その一方で、表舞台から姿を消すのは、ほぼ例外なく「経営者個人」です。

この現象を、誰かが罠を仕掛けた、誰かが嵌めた、と断じるのは危険です。 事実認定としても、法的議論としても、誠実ではありません。

しかし同時に、こうした出来事を単なる「個人の失敗」や「資質の問題」と片付けることも、また不十分です。

市場は意思を持たない。だが、構造は結果を選別する

市場に人格はありません。 神の見えざる手も、現代においては比喩にすぎません。

それでも市場は、突出した存在に対して、ある種の「ふるまい」を示します。

それは、
失敗や綻びが生じた瞬間に、
その影響を一気に表面化させ、
処理を加速させる構造です。

これは誰かが設計したわけでも、誰かが指示したわけでもありません。 むしろ、進化論的に形成された結果だと考える方が自然でしょう。

情報が高速で伝播し、責任の所在が単純化され、説明可能性が強く求められる環境では、 「一人の顔を持つ存在」が、最も処理しやすい対象になるのです。

なぜ「経営者」なのか

合理性や戦略以前に、
『この人が決めた』
という説明を引き受ける立場にあります。

平時においては、それがカリスマ性として評価されます。 しかし有事においては、同じ構造が、責任の集中として機能します。

制度は抽象的すぎ、組織は広すぎ、個々の従業員は分散しすぎている。 結果として、説明責任と感情のはけ口は、経営者個人に集約されます。

これは善悪の問題ではありません。 現代の統治・市場・情報環境が生み出した、極めて合理的な帰結です。

それでも、備えることはできる

重要なのは、
こうした構造を、
単なる「運」や「人格」の問題として処理しないことです。

経営者個人の立場、権限、責任、退路。 それらを制度・契約・統治構造の中で、どこまで織り込めているか。

多くの場合、法的な問題は「事件が起きてから」相談されます。 しかし、経営者が退場を求められる局面では、 すでに選択肢は大きく制限されています。

静かな時期にこそ、 「自分はどの立場に立たされるのか」 「何が自分を守り、何が自分を切り離すのか」 を確認しておく必要があります。

問題は、不祥事そのものではありません。

その前の段階で、
どこまでリスクを認識していたか。
どの時点で止める判断ができたか。
どの構造に自分が組み込まれているかを、
認識していたかです。

多くの経営者は、
「まだ大丈夫だ」と考えます。

しかし、退場が決まるのは、
その判断の積み重ねの結果です。

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
弁護士として30年以上の経験と実績を有し、これまでに多様な訴訟に携わってまいりました。顧問弁護士としては、常時30社を超える企業のサポートを直接担当しております。
依頼者一人ひとりの本当の「勝ち」を見極めることにこだわり、長年の経験と実践に基づく独自の強みを最大限に活かせる、少数精鋭の体制づくりに注力しています。特に、表面に見えない企業間の力学や交渉の心理的駆け引きといった実務経験は豊富です。 北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校、北海道大学法学部卒業。

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