「株式は売らない」と伝えておけば、株主でいられるのでしょうか。会社法上の一定の手続によっては、個別に売却へ同意していなくても、株主としての地位を失うことがあります。スクイーズアウト、キャッシュ・アウトの意味と、会社側・少数株主側が確認すべき点を説明します。
株式を売らない意思と、株主でいられるかは別の問題です
スクイーズアウトとは
スクイーズアウトとは、少数株主の個別の同意を得ずに、その保有株式を取得するなどして、株主から退出させることをいいます。「少数株主の締め出し」とも呼ばれます。
例えば、大株主が会社の株式の大部分を保有していても、残りの株式を持つ株主が売却に応じなければ、通常の売買だけで全株式を取得することはできません。
そこで、一定の要件を満たす場合に、会社法上の手続を用いて株式を集約するのがスクイーズアウトです。
「売却に同意していない」というだけで、必ず株主でいられるとは限りません。 一方、大株主であれば自由な条件で少数株主を退出させられるわけでもありません。手続の適法性と、交付される対価の適正さが問題になります。
キャッシュ・アウトとの関係
スクイーズアウトのうち、金銭を対価として少数株主を退出させることは、キャッシュ・アウトと呼ばれます。実務では、同じ取引を指して両方の言葉が使われることもあります。
ただし、いずれも会社法の条文に置かれた単一の制度名ではありません。具体的には、主に次の方法が用いられます。
特別支配株主の株式等売渡請求
原則として、総株主の議決権の90%以上を保有する特別支配株主が、対象会社の承認を得て、他の株主に株式の売渡しを請求する制度です。
株式についての請求は「株式売渡請求」といい、対象会社の株主総会決議を経ずに行うことができます(会社法第179条以下)。
なお、90%という要件は、単純な持株数ではなく議決権を基準とし、定款や完全子法人による保有なども確認する必要があります。
株式の併合
複数の株式をまとめ、従前の一定数の株式を1株にする手続です。
少数株主の保有分が1株未満の端数になるように併合し、その端数を金銭で処理することによって、株主から退出させる方法として用いられます。原則として、株主総会の特別決議が必要です(会社法第180条以下)。
「90%に届かなければスクイーズアウトはできない」というわけではありません。 採用する方法によって、必要な要件や手続が異なります。
TOBに応募しなくても、株主でなくなることがある
TOB(公開買付け)は、買付価格や期間などを示して、株式の売却を広く募る手続です。株主は、応募するかどうかを判断します。
これに対し、スクイーズアウトは、個々の株主の売却への同意を得ずに進める法定手続です。
そのため、TOBに応募しなかった株主も、その後に行われるスクイーズアウトによって株主でなくなることがあります。
TOBの公表資料を読む際には、買付価格だけでなく、成立後に残る株主をどのように扱う予定なのかまで確認する必要があります。
養命酒製造をめぐる取引についての記事で用いた「スクイーズアウト」も、TOB後に残る株主を退出させ、株式を集約する段階を指しています。その後の事業・資産の分離や株式譲渡と区別すると、取引の流れを理解しやすくなります。
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非上場会社でも問題になります
スクイーズアウトは、上場会社の買収だけの話ではありません。
非上場会社でも、相続によって親族に株式が分散している、退職した役員が株式を持ち続けている、事業承継や会社売却に向けて株式を集約したい、といった場面で検討されます。
会社側には、株主構成を整理して経営や承継を進めたい事情があります。他方、少数株主側には、創業への貢献、相続した財産としての意味、会社に蓄積された資産への関心などがあります。
会社側に株式を集約する必要があることと、提示された条件が少数株主にとって適正であることは、分けて検討する必要があります。
「経営に関わっていないから」「持株が少ないから」という理由だけで、株式の価値や株主の権利がなくなるわけではありません。
株式を集約する側が確認すべきこと
会社側・支配株主側では、まず、何のために株式を集約するのかを明確にする必要があります。
事業承継なのか、会社売却なのか、経営上の対立の整理なのか。目的によって、任意の買取交渉で進めるべきか、法定手続を用いるべきかという判断も変わります。
そのうえで、株主構成と議決権割合、定款、必要な会社の承認や株主総会決議、対価の算定根拠、資金、日程を確認します。
手続を進められるという見通しだけで着手すると、価格をめぐる紛争などにより、予定していた事業承継や会社売却に影響が生じることがあります。
株式を手放すよう求められた側が確認すべきこと
少数株主側では、最初に、届いた書面が通常の買取提案なのか、会社法上の手続に関する通知なのかを確認してください。
任意の売却交渉であれば、原則として売却するかどうかを選べます。しかし、法定手続が進んでいる場合には、単に「売らない」と回答するだけでは十分でないことがあります。
確認すべき点は、主に次のとおりです。
- どの手続が、どこまで進んでいるか
- 取得日・効力発生日や、対応の期限はいつか
- 提示された対価は、何を根拠に算定されているか
- 事業の収益力や保有不動産などが、評価にどう反映されているか
- 手続を争うのか、適正な対価の確保を目指すのか
手続に応じて、差止めや裁判所による価格決定などの制度が設けられています。ただし、利用できる条件や期限は同じではありません。株式併合では、株主総会前の反対通知などが必要になる場合もあります。
書面を受け取った段階で、封筒を含めて保管し、対応の要否と期限を確認することが重要です。
株主でいることと、適正な対価を得ること
スクイーズアウトに直面したとき、「株主でなくなることを止めたい」という問題と、「退出するなら適正な対価を得たい」という問題では、検討すべきことが異なります。
会社側でも、株式の集約それ自体に加えて、その後の事業や承継を予定どおり進められるかを考える必要があります。
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