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AIは物理から自由ではない――暗号資産からフィジカルAIへ、現実に働く条件を見る

生成AIを動かすには電力・半導体・冷却設備が必要であり、フィジカルAIを現場で使うには機械・作業環境・運用の条件が関わる。技術の可能性を、現実に働く条件から考える。

 

暗号資産(いわゆる仮想通貨)や生成AIは、画面の中で完結しているように見える。しかし、その背後では計算機が動き、電力を消費し、熱を発している。「仮想」の世界も、現実の装置に支えられている。
一方、AIとロボットを結びつけるフィジカルAIでは、AIが現実の作業に働きかける。ここでは、機械の能力だけでなく、対象物や周囲の環境、作業の組み立て方までが結果を左右する。
安川電機の小川昌寛氏が語った社会実装の構想を手掛かりに、技術の性能と、それが現実に働く条件との関係を考えてみたい。

技術の可能性を、その成立条件と使われる現場から考える

1 小川昌寛氏の構想から考える

2026年10月7日付けの日経ビジネスに、安川電機前社長・小川昌寛氏の足跡を振り返る記事が掲載された。そのタイトルには、「ハードで勝ち抜け」という言葉が掲げられていた。

同年1月8日付けのインタビューで、小川氏は、日本のハードウェア技術の強みを、AIの社会実装に結びつける可能性を語っていた。

そこで注目したいのは、自社だけで完結させる構想を取っていなかったことである。ロボットの技術を、他社のAIや通信の基盤と組み合わせ、現場で使えるものにしていく。開発の進む場所に身を置き、パートナーと連携することも重視していた。

私は、この構想を、技術の優劣だけで捉えるよりも、持っている技術が、どのような条件で現実の価値になるのかという問題として考えてみたい。

2 「仮想」の世界も、現実の装置で動いている

「仮想通貨」という呼び名からは、物理的な世界を離れた存在を連想しやすい。

しかし、例えばビットコインのマイニングは、現実の計算機によって行われる。計算機を動かすためには電力が必要であり、発生する熱を処理する仕組みも必要になる。

生成AIも、現実の計算機で動いている。学習するときも、利用者の問いに応じて出力を生成するときも、計算資源を使う。

もちろん、マイニングと生成AIでは、計算の目的も仕組みも異なる。暗号資産の仕組みも一様ではない。

ここで見ておきたいのは、情報として扱われるものも、その処理と維持には物理的な基盤を必要とするという共通点である。

クラウドも同じである。利用者の手元に装置が見えなくても、その背後にはサーバー、通信設備、電源設備が存在する。

画面に現れない条件も、技術を成立させる条件の一部なのである。

3 AIの性能と、使い続けられる条件

AIの進歩は、回答の精度や処理能力によって語られることが多い。

しかし、高性能なAIを広く使い続けるには、半導体、電力供給、通信、冷却などの設備が関わる。利用する事業者にとっては、費用や稼働の安定性も問題になる。

計算の効率化が進んでも、利用の規模や用途が変われば、必要とされる設備の能力は変わる。

そのため、性能の向上だけから、利用を支える条件まで整ったと判断することはできない。

何ができるかとともに、何がなければできないかを見る。

技術の可能性を考える際には、この両方の視点が必要になる。

4 フィジカルAIでは、現実の状態が結果を左右する

AIが物理的な装置に支えられていることと、フィジカルAIが現実の作業を担うことは、区別して考える必要がある。

前者は、AIを動かすための基盤の話である。

後者は、AIによる認識や行動の選択を、ロボットなどの動作に結びつける話である。

例えば、ばらばらに置かれた物を認識し、つかみ方を選び、持ち上げる。その結果を確認し、次の動作を調整する。

ここでは、対象物の重さ、形状、滑りやすさ、周囲の障害物などが結果を左右する。センサーが捉えられる範囲や、機械の動作精度にも限界がある。

小川氏のインタビューでも、位置や種類が一定でない物を扱う作業など、従来は人の手に頼ってきた現場への展開が語られていた。

こうした作業では、情報処理の結果を出すだけでは完結しない。現実の状態を捉え、動作し、その結果を確かめるところまで接続する必要がある。

5 ハードの強みを、現場の価値に結びつける

小川氏が日本のハードウェア技術に見ていた可能性は、AIを現場で機能させる段階にあったと読める。

ただし、優れた機械があれば、それだけで現場の課題が解決するとは限らない。

どの作業を対象にするのか。必要なAIや制御の技術をどう組み合わせるのか。既存の作業手順をどこまで変えるのか。故障や例外に誰が対応するのか。

これらがつながって、継続的に使える仕組みになる。

小川氏が他社との連携を重視していた点は、この意味で重要である。自社の強みを把握するだけでなく、その強みが現場で生きるために、何を補う必要があるかを見ていたのである。

強みを持っていることと、その強みを現実の価値にすることの間には、判断と実装の仕事がある。

6 最初に、任せる範囲と止める条件を定める

実演で作業が成功することと、日々の仕事を任せられることの間には距離がある。

現場では、物の配置が変わり、想定と異なる物が届き、人が作業範囲に入る。機械も故障する。通常の作業だけでなく、例外が生じたときまで含めて運用を考える必要がある。

導入に当たっては、最初に少なくとも次の点を整理しておきたい。

  • 解決する課題と、任せる作業の範囲。
  • 採用を判断するために確かめる事実。
  • 停止して人に引き継ぐ条件。
  • 保守や例外対応を含む費用と負担。
  • 稼働を確認し、継続・変更・終了を決める担当。

これらを曖昧にしたまま導入すると、動き始めてから、何を基準に対応すべきかを決めることになる。

技術を使い始める前に、何を整理し、何を固定し、どこで止めるかを定める。その初動が、後の運用を左右する。

AIによって処理できる範囲が広がるほど、できることの全てを実行するのではなく、採用する範囲を決める判断が必要になる。

7 法律実務でも、出力を採用する条件を確かめる

法律実務でも、AIが文章や選択肢を生成することと、その内容を具体的な事件で採用することの間には距離がある。

前提となる事実は確認できているか。資料に欠落はないか。法的な根拠は確かか。依頼者が守ろうとしているものは何か。今その手段を採ることで、どの選択肢が失われるのか。

こうした点を確かめなければ、整った出力も、現実の対応には結びつかない。

私がAIを活用する際に重視するのも、判断の前提を整理し、照合することである。構造の把握や採否の判断は、自ら行う。

また、弁護士の判断と、依頼者の判断も区別する必要がある。

弁護士は、法的評価、助言、事件処理について専門家としての責任を担う。その上で、依頼者が、何を守り、どの負担やリスクを受け入れるかを判断できる状態を整える。

AIの処理能力が高まっても、この役割分担を曖昧にしてよいことにはならない。

フィジカルAIの動作と法律実務は異なる。しかし、技術の出力を現実に用いるには、対象となる現実と、採用する条件を確かめる必要があるという点に、共通する問題がある。

性能を見る。成立条件を見る。使われる現場を見る。そして、誰が何を決めるかを確かめる。

私は、AIの可能性を、このつながりの中で考えている。

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前田 尚一(まえだ しょういち)
弁護士として35年以上の経験と実績を有し、これまでに多様な訴訟に携わってまいりました。顧問弁護士としては、常時30社を超える企業のサポートを直接担当しております。
依頼者一人ひとりの本当の「勝ち」を見極めることにこだわり、長年の経験と実践に基づく独自の強みを最大限に活かせる、少数精鋭の体制づくりに注力しています。特に、表面に見えない企業間の力学や交渉の心理的駆け引きといった実務経験は豊富です。 北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校、北海道大学法学部卒業。

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