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形式だけでは決まらない ―― 誰が本当の株主なのか

※この記事は、平成9年言い渡された判決について、
直ぐにに報告のために公表したものを
ほぼ当時の記事のまま転記したものです。

裁判所は何を見て株主を判断したのか

家業を法人化した際、先代が株式払込金を支出した場合において、長男・長女を実質的株主として株式を取得させるため、その株式払込義務を代わって履行したものであるとして、長男・長女の株主権を認めた事例

札幌地方裁判所平成9年11月6日民事第1部判決

[判決要旨]

(1)Y会社の設立に当たっては、A名義の預金口座から50万円が株式の払込に充てられており、Aがすべての株式の払込金を支出したものであるが、(2)①X1は高卒後家業である印判制作販売業に従事するようになり、Aを助けて業績を伸ばし、AにYの法人化も進言した(その後、Aと会社経営方針の相違で対立し退職した)、②X2も高卒後勤めていた就職先を退職して家業に従事するようになった(その後、結婚退職)等の事実関係があり、③Aは、X1X2には名義だけでなく実質的な株主として株式を保有させようとしたものと推認することができ、AはX1X2を実質的株主として株式を取得させるため、Xらの株式払込義務をXらに代わって履行したものと認めるのが相当であり、一旦株式を保有させた以上退職しているからといってこれを奪うことはできない。

 

本件は、株式払込金の負担金ではないという形式だけで事柄を決することなく・・・実質を重視してきめ細かな判断を示し」ており「事例的意義を有するものとして、実務上参考」になるとして、判例雑誌「判例タイムズ」誌に紹介されました(1011号240頁以下)。

誰が株主になるのかについては、東京地裁民事8部経験の元裁判官(元木)からの批判もあるが、判例は、当時既に「実質説」に確定しています。

ただ、“実質”説であるだけに、具体的事案において、何をどの程度主張・立証すれば実質的に株主であると認められるのかは、必ずしも明らかではありません。

こういった場合、裁判例の集積に期待するといわれますが、株式を原始的に取得した者について端的に判断した裁判例で公表されているものは、東京地裁昭和昭57年3月30日判決・判タ471号220頁しか見当たりませんでした。

ところで、この「判例タイムス」の解説(匿名執筆であるが最高裁判所調査官が書いていると言われています。)は、

「本件の特色としては、株式払込金の負担者が長男・長女を実質的株主として株式を取得させるため株式払込義務を代行したとする事実認定にある。払い込んだ金員が家族の共有資産であった旨の主張を排斥している点は、個々の権利の可及的明確化という観点から評価されよう。そして、株式払込金の負担者ではないという形式だけで事柄を決することなく、(2)①②のような実質を重視して木目細かな判断を示している。」

と述べています。

この点、本判決は、次のような文章でつなぎ合わせる展開で、当方勝利にしてくれた結論を導いています。

「…………
しかし、……。この●名義の預金をもって、実質的に家業専従者の共有資産であったということはできない。したがって、被告の設立に当たっては、●がすべての株式の払込金を支出したものと認めるべきである。
2 しかし、だからといって、本件においては、当時の法制上の必要がら原告らを単なる名義株主としたものとみるのは相当でない。
…………」

 

実は、当方が提示した準備書面は、まさに、裁判所がこのような認定をし易いよう工夫した、敢えていえばそのように仕向けた、二段階の主張によって構成しています。
こちらで、当方の提出した準備書面をご確認ください。

二段階の主張をする場合、まず主位的な主張をして、次にそれが認められない場合のために、「予備的」な,あるい「仮定的」な主張をするという目論みでされるのが通例かと思います。

しかし、私は、そのような目論みに囚われると、勝負は、勝ちから遠のいてしまうと考えています。
二段構成の多くは、始めの主張を蹴ってもらって、後の主張で勝たせてもらうよう仕向ける、そういった「戦術」的な書面の在り方を積極的に用いるのがよい場面が少なくないと経験しています。

この準備書面の中では,次のとおりつなぎ合わせて提示した全体の構成が,ほぼそのまま,本件判決の展開となっています。

「これらの事実を総合すれば、原告らがそれぞれ払込義務を履行したと認められるし、仮に百歩譲って、前記預金の名義そのものに拘泥するとしても、父●が原告それぞれの払込義務を原告らに代わって履行したか、父●が原告らに株式を贈与したものと解され、いずれにせよ、被告設立当時の原告●名義の七〇株、原告由子名義の二〇株は、いずれも単なる名義株ではなく、それぞれ原告●、原告●所有のものであることは明らかである。」

振り返ってみると、

本件は単なる過去の勝訴事例ではありません。

形式だけで判断せず、

事実関係全体をどのように整理し、

裁判所がどのような経路で結論に到達できるかを考える。

現在私が「初動」「情報整理」「現実判断」について書くとき、その背景にはこのような事件で得た経験があります。

本件は、現在でも私の実務上の判断基準を形づくっている事件の一つです。

 

当事務所では、
目の前の法的正解だけではなく、
初動・情報整理・損失配分・将来維持可能性を含めた現実判断を重視しています。

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前田 尚一(まえだ しょういち)
弁護士として30年以上の経験と実績を有し、これまでに多様な訴訟に携わってまいりました。顧問弁護士としては、常時30社を超える企業のサポートを直接担当しております。
依頼者一人ひとりの本当の「勝ち」を見極めることにこだわり、長年の経験と実践に基づく独自の強みを最大限に活かせる、少数精鋭の体制づくりに注力しています。特に、表面に見えない企業間の力学や交渉の心理的駆け引きといった実務経験は豊富です。 北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校、北海道大学法学部卒業。

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