判断在庫④
判断が成立する条件を整えた事例
実務の現場では、
事案に極めて近い判例が存在していても、
その適用範囲について慎重な検討が続き、
判断が直ちには定まらないことがあります。
このような局面では、
法律論をさらに精緻に積み重ねることが、
必ずしも判断形成を前に進めるとは限りません。
問題は、法理の不足ではなく、
その解釈を採用するための前提理解や確信が、
まだ十分に整理されていない点にある場合があります。
本件では、
事案に極めて近い判例が存在していましたが、
その適用範囲について慎重な検討が続き、
結論が直ちには定まりませんでした。
法律論の整理を重ねても判断の前進が見られなかったため、
制度運用に関する専門文献を提示し、
前提理解の整理を行いました。
その結果、検討が整理され、判断が確定しました。
判断の前提理解を安定させる資料
そのような場合、
制度運用を担当する官庁の公式解説、
専門分野の研究者による論文、
学術雑誌や専門誌の解説など、
判断の前提理解を安定させる資料が、
重要な意味を持つことがあります。
これらは法律そのものを変更するものではありません。
しかし、制度や概念の理解を補強することで、
どの解釈を採用することが合理的かを整理する材料となります。
その結果として、
停滞していた検討が整理され、
判断が確定することがあります。
判決理由と判断形成過程
判決書は、
法令や判例に基づく論理として整理されます。
一方、実際の検討過程では、
どの理解を前提とするか、
どの解釈が制度全体と整合するかといった点について、
参照可能な専門知見が
重要な役割を果たすことがあります。
判断は、
論理の提示だけでなく、
その論理を採用できる理解の枠組みが整うことで、
成立することがあります。
実務における判断技術
このように、
-
判断が停滞している理由を観察する
-
判断に必要な前提理解を特定する
-
その理解を支える資料を提示する
という過程も、
実務における重要な判断技術の一つです。
これは結果を選択する作業ではなく、
判断が成立する条件を整える作業です。
専門分野に存在する知見について
判断に必要な資料は、
必ずしも法律分野の文献だけに限られません。
制度運用の実態や専門的解説など、
案件に関係する分野の専門知見が、
判断の前提理解を安定させる材料となることがあります。
そのため、
案件によっては、
法律資料と併せて、
専門分野に存在する知見が重要な意味を持つ場合があります。
判断在庫としての蓄積
当事務所では、
このような経験も「判断在庫」として蓄積しています。
解決結果そのものではなく、
どのような条件が整ったときに判断が成立したのか。
その観察と蓄積こそが、
次の判断の精度を高める基盤になると考えています。
その判断の過程や基準を整理したものが、
▶ [判断在庫とは何か ― 弁護士が「解決事例だけでは語らない理由」
※本稿は、特定の裁判官の判断過程を論じるものではなく、
実務上一般に観察される判断形成の構造について述べたものです。






