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専門家不足から判断者不足へ ―― 名誉毀損問題が教えてくれること

最近、株式会社刀と週刊文春との間で、報道内容や事実認識を巡る対立が話題になりました。

もちろん、第三者には分からない事実も多く、ここでどちらが正しいかを論じるつもりはありません。

私が興味を持ったのは別の点です。

もし自分がその当事者だったら、どう判断するだろうか。

反論するのか。

説明を続けるのか。

沈黙するのか。

法的措置を取るのか。

名誉毀損や誹謗中傷の問題では、「何が正しいか」という法律論だけではなく、「どう対応するのか」という判断が問われます。

そして、その局面になると、多くの人は専門家を探します。

しかし現実には、専門家の意見が増えるほど、かえって判断が難しくなることがあります。

いま不足しているのは専門家ではなく、情報を整理し、何を優先するかを決める判断主体なのかもしれません。

弁護士はいる。しかし最後に決める人がいない。

企業に対する批判報道。

SNS上の誹謗中傷。

政治家や経営者に対する名誉毀損。

近年、このような問題が大きく取り上げられる機会が増えています。

こうした局面になると、多くの人はまず弁護士を探します。

それ自体は間違いではありません。

しかし実際の現場では、

「名誉毀損に当たるのか」

という法律論だけが問題になるわけではありません。

むしろ先に問題になるのは、

何が事実なのか。

どこまで反論するのか。

公表するのか。

沈黙するのか。

訴訟を提起するのか。

それとも別の方法を選ぶのか。

という判断です。

法律の専門家は存在します。

広報の専門家もいます。

SNS対応の専門家もいます。

しかし、専門家の意見が増えるほど、かえって決められなくなることがあります。

ある専門家は争うべきだと言う。

別の専門家は静観すべきだと言う。

さらに別の専門家は発信を強化すべきだと言う。

それぞれに理由があります。

問題は、その中から何を採用し、何を捨てるかを決める人がいないことです。

かつては専門家そのものが不足していました。

法律問題が起きても弁護士に相談できない。

税務問題が起きても税理士が身近にいない。

そのような時代もありました。

しかし現在は違います。

専門家は増えました。

インターネットによって大量の情報へアクセスできるようになりました。

さらにAIによって、専門的な知識そのものは以前より容易に得られるようになっています。

それにもかかわらず、多くの人が判断に苦しんでいます。

理由は単純です。

専門家は意見を提供できますが、依頼者自身に代わって人生や会社の方針を決めることはできないからです。

法的に正しい選択と、現実的に望ましい選択が一致するとは限りません。

訴訟を提起することが法的には正しい場合があります。

しかし、取引先との関係や地域社会への影響、将来の事業継続を考えると、別の選択が望ましいこともあります。

相続でも同じです。

法律上取得できる権利と、家族関係を維持するために選ぶ結論は必ずしも一致しません。

企業経営でも同様です。

正しいことを主張するだけで会社が守れるとは限りません。

何を守るのか。

何を優先するのか。

どこで損失を止めるのか。

その判断が必要になります。

情報が増える時代だからこそ、重要になるのは情報そのものではありません。

情報を整理することです。

そして、その整理された情報をもとに、誰が何を決めるのかを明確にすることです。

実際に、世論や報道による強い批判の中で、何を信じ、どのような判断を維持するかが問題となった事案もあります。

「パチンコ疑惑報道」忍従2年半 札幌市議菅井盈が道新に全面勝訴

正に、長期間にわたり何を信じ、何を捨て、何を維持するかという判断の問題、でした。

当事務所では、

目の前の法的正解だけではなく、

初動・情報整理・損失配分・将来維持可能性を含めた現実判断を重視しています。

関連記事:「私は相談で何を聞くのか ―― 法律相談の前に整理したいこと」

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
弁護士として30年以上の経験と実績を有し、これまでに多様な訴訟に携わってまいりました。顧問弁護士としては、常時30社を超える企業のサポートを直接担当しております。
依頼者一人ひとりの本当の「勝ち」を見極めることにこだわり、長年の経験と実践に基づく独自の強みを最大限に活かせる、少数精鋭の体制づくりに注力しています。特に、表面に見えない企業間の力学や交渉の心理的駆け引きといった実務経験は豊富です。 北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校、北海道大学法学部卒業。

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