弁護士ドラマを見ていると、事件そのものより「弁護士が何を見て、どう判断したか」が面白いことがあります。
韓国の弁護士ドラマをいくつか見ていると、面白さの理由は、単に法廷で勝った、難事件を解決した、というところだけにはないように思います。
登場人物にはそれぞれ際立った能力があります。しかし、一人の万能な弁護士を描くというより、ある人物には「気づく力」、ある人物には「組み立てる力」、ある人物には「人を動かす力」というように、仕事をするうえで必要なものを別々の人物や物語に託している。
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』『エスクワイア』『グッド・パートナー』、そして天才形成外科医を主役とした日本のドラマ『ダウンタイム』に遭遇し、そんなことを考えました。
弁護士ドラマに見る、仕事の四つの場面
1 弁護士ドラマで描かれているのは「人がどう判断するか」
韓国ドラマにも、現実そのものとは違う誇張もあります。
それでも、近時の日本ドラマと違って、面白い。
弁護士ドラマの場合であっても、脚本家自身が経験していない世界でも、
その世界を支配している制度・利害・組織・権力関係までを徹底して調査し、財閥、政治、検察・司法、企業、労働などについて、現実社会で実際に起きている事件や制度を素材として吸収し、
「その立場の人なら、この局面で何を恐れ、何を守り、どう動くか」まで組み立てていると思われる作品に、しばしば遭遇します。
一つには、事件の結論だけではなく、その結論に至るまで人が何を見て、何を考え、どう動いたのかをかなり丁寧に描くからではないかと思います。
法律知識を披露して終わるのではありません。
依頼者は何を隠しているのか。
相手は次にどう動くのか。
今ここで強く出るべきなのか。
いったん引くべきなのか。
そもそも、目の前に示された問題が本当の問題なのか。
事件を素材にしながら、「人がどう判断するか」がドラマになっています。
そこに、私が弁護士の仕事について普段考えていることと重なるものがあります。
各ドラマの詳しい内容については、末尾の「資料」でご確認ください。
2 『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』――まず「違和感」に気づく
ウ・ヨンウには圧倒的な記憶力と法律知識があります。
しかし、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』で印象に残るのは、圧倒的な記憶力や法律知識だけではありません。
周囲の人が当然のこととして通り過ぎてしまうところで、彼女だけが立ち止まる
「何かおかしい。」
まだ理由は説明できない。
法律構成もできていない。
しかし、事実と説明がどこか噛み合わない。
実務でも、この「違和感」は案外重要です。
歴史上の人物ですが、天下を読む軍師・黒田如水を思い出します。
最初から論理的に説明できるものだけを拾っていたのでは、見落としてしまうものがあります。
もちろん、違和感は結論ではありません。
間違っていることもある。
だからこそ、
違和感を捨てない。
しかし、違和感を答えにもしない。
いったん留め置き、事実や資料に戻って確かめる。
仕事の入口には、そんな姿勢が必要なのだと思います。
『天才肌』を見ていると、その仕事の入口を思い出します。
3 『エスクワイア: 弁護士を夢見る弁護士たち』
――構造を捉え、現在地を知り、先を想定する
『エスクワイア』から受ける印象は少し違います。
こちらで目につくのは、目の前の問題だけを解こうとしないことです。
誰と誰が対立しているのか。
それぞれ何を持っているのか。
現在どの地点にいるのか。
こちらが一手打てば、相手はどう動くのか。
その次には何が起きるのか。
つまり、
現状把握 → 構造把握 → 将来予測 → 組み立て
です。
法律問題には、正しい法律知識が必要です。
しかし、法律を知っていることと、事件を扱えることは同じではありません。
事件全体を一枚の地図のように眺め、その中で現在地を確認し、いくつか先まで想定して「今の一手」を決める。
法律問題を個別の論点だけで見るのではなく、事実関係、利害関係、時間軸、選択肢まで含めて整理する。
『エスクワイア』には、その仕事の姿が比較的よく現れているように感じます。
4 『グッド・パートナー~離婚のお悩み解決します~』
――その場その場で、人を動かす
『グッド・パートナー』は、さらに違います。
こちらを見ていると、かつて久保利英明弁護士の仕事ぶりなどから感じた、その場で人を動かす実務家の力を連想します。
どれほどよい方針を立てても、人が動かなければ事件は進みません。
依頼者が途中で疲れることもある。
組織の中で温度差が生じることもある。
長い事件では、当初の緊張感も薄れていく。
そこで必要になるのは、精緻な法律論とは少し違う能力です。
その場その場で状況を読み、
誰に、何を、どの程度伝えるか。
何を目標として示すか。
どうすれば次の一歩を踏み出せるか。
モチベーションやインセンティブを維持しながら、現実に人を動かしていく。
これは「構造を考える」だけでは代替できません。
設計図があっても、現場は勝手には動かないからです。
法律問題を解決する仕事であっても、最後は人が判断し、人が動く。
その現実を忘れてはいけないのです。
5 『ダウンタイム』の遠山新――経験をチェックと振り返りにつなげる
そして主演ではありませんが、『ダウンタイム』の遠山新を見ていて、少し違う方向から考えたことがあります。
脚本は、池上純哉さん。制作に当たっては、現代の美容整形業界を徹底してリサーチしたとされています。近時の日本ドラマでは珍しく、背景にある業界の現実までかなり踏み込んで組み立てられた作品だと感じました。
他作品同様、この作品も、人物にその意味を説明させすぎず、選択や行動を通じて考えさせる作りがされているように思えます。
私が気になったのは、経験を積んだ人間ほど、「分かっているつもり」になる危うさです。
経験があるからこそ省略する。
分かっていると思うから確認しない。
忙しさの中で、一つの判断から次の判断へ移ってしまう。
そこで意味を持つのが、派手ではありませんが、
チェックリストと振り返り
です。
何を確認したか。
何を見落としていないか。
当初の想定と実際はどこが違ったか。
うまくいったのはなぜか。
失敗したのはどこか。
次に同じ場面が来たら何を変えるか。
これは、経験を単に「経験年数」にしないための作業でもあります。
実務で得た知見だけでなく、違和感や失敗までいったん戻して、次の判断材料にする。
仕事は、そこで一周します。
6 四つは、別々の能力ではない
こうして並べてみると、四作品から拾ったものは、意外につながっています。
違和感を拾う。
そこから、
構造と現在地を把握し、先を想定して組み立てる。
そして現実には、
その場その場で人を動かし、動き続けられる状態をつくる。
仕事が終われば、
チェックし、振り返り、得られたものを次へ戻す。
そして、振り返りの中からまた、
「あれは、何かおかしかったのではないか」
という新しい違和感が生まれることもあります。
そう考えると、これは直線というより、循環なのでしょう。
違和感
→ 構造・現状把握
→ 先を想定した組み立て
→ 人を動かす
→ チェック・振り返り
→ 新たな違和感……
7 ドラマを見て、弁護士の仕事を再確認する
もちろん、ドラマの登場人物を現実の弁護士の模範にするつもりはありません。
現実の事件はもっと雑然としており、事実は最後まで分からないこともあり、思ったとおりに人が動くとも限りません。
それでも、こうしたドラマを見ていると、自分が仕事をするうえで何を大事にしてきたのか、逆に何が不足しやすいのかを考えるきっかけにはなります。
法律を知ること。
違和感を捨てないこと。
構造を見ること。
現在地を間違えないこと。
先を考えること。
人が動く条件を考えること。
そして、終わった仕事を振り返ること。
どれか一つだけで十分というものではないのでしょう。
では、これらを実際の事件の中でどう組み合わせるのか。
それについては、ここで一つの結論を出すよりも、当事務所が「判断」や「実務姿勢」について考えてきた別の記事をご覧いただく方がよいように思います。
関連記事
▶ 初動で結果が変わる――まず状況を整理し、適切な判断につなげる
▶ 分野は違っても、見ていたものは同じだった――30数年の実務を振り返って
▶ 「ダウンタイム」を仕事の外に置かない――松岡茉優主演『ダウンタイム』を観た67歳の弁護士が考える、身体と仕事の長期設計
資 料
〇 「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」
* 日本版(主演・ 芦田愛菜)
〇 「ダウンタイム」






