その広告を掲載する前に、何を確認し、誰が判断するか
「この言葉は広告に使えますか」
病院・クリニックのホームページや雑誌広告を制作するとき、こうした疑問が生じます。しかし、言葉だけを取り出しても、掲載の可否を判断できるとは限りません。
どの媒体に、何を根拠として、どのような説明とともに掲載するのか。まずは、その広告の具体的な内容と掲載方法を確認する必要があります。
2019年に作成した説明書で重視したこと
私は、2019年、顧問会社の依頼で、雑誌に掲載する医療広告の執筆に当たっての留意事項をまとめた説明書を作成しました。
説明書では、注意を要する表現を先に示し、広告規制の全体像、具体的な確認に使う資料へと進む構成にしました。
例えば、安全性を強調する表現、他の医療機関との比較、患者の体験談、治療前後の写真、専門医の資格や実績の表示などです。
ただし、注意事項を列挙するだけでは、担当者は実際の原稿を前にして迷ってしまいます。そこで、疑問が生じた際に、ガイドラインやQ&Aのどこを確認するかも示しました。
規制の全体像をつかみ、目の前の原稿について具体的に確認する。
この進め方は、現在の医療広告への対応にも通じます。もっとも、当時の説明書に記載した個々の取扱いは、その後の改正等を踏まえて確認する必要があります。
医療広告では、三つの区別が必要になる
医療広告の確認では、少なくとも次の三つを分けて考えます。
- 虚偽・誇大な表示など、内容自体が禁止されるもの
- 法令等により、広告できる事項として定められているもの
- ウェブサイト等で一定の要件を満たす場合に、広告できる事項の範囲が広がるもの
最後の仕組みが「広告可能事項の限定解除」です。
限定解除の要件を満たしても、虚偽広告や比較優良広告などの禁止が解除されるわけではありません。www.mhlw.go.jp
また、「ホームページに掲載できるから、雑誌広告にも使える」とは限りません。同じ原稿を別の媒体に使う場合にも、掲載先に応じた確認が必要です。
雑誌の記事を、そのまま広告に使えるのか
例えば、雑誌で自院が紹介され、その記事をホームページや広告に掲載する場面を考えてみます。
「実際に掲載された記事だから、そのまま使ってよい」と考えることはできません。
厚生労働省のQ&Aでも、医療機関の広告に新聞・雑誌の記事を引用する場合、その引用部分にも医療広告規制が適用されるとされています。第三者の評価を引用する形でも、比較優良広告に当たることがあります。www.mhlw.go.jp
確認するのは、記事が実在するかどうかだけではありません。
何が書かれているか。どのような見出しや写真と組み合わせるか。掲載全体として、患者にどのような印象を与えるか。
元の記事の内容と、それを広告として利用する際の見せ方を、併せて確認する必要があります。
掲載前に、何を確認するか
原稿を確認する際には、次の事項を整理します。
| 確認する対象 | 確認する内容 |
|---|---|
| 掲載先 | 雑誌広告、ホームページ、SNSなど、どこで、どのように表示するか |
| 表示内容 | 医療内容、資格、実績、料金など、何を伝えるか |
| 根拠資料 | 表示を裏付ける資料があるか。数字の対象や集計期間は明確か |
| 必要な説明 | 費用やリスクなど、併せて示すべき情報に不足がないか |
| 確認担当者 | 医療上の事実、法的な問題、最終原稿を、それぞれ誰が確認するか |
医療機関と制作側では、把握している情報が異なります。
制作側が表現を整えていても、その前提となる医療上の事実や実績の数字が正しいかどうかは、医療機関での確認が必要です。一方、医療機関から提供された内容でも、広告としてどう表示するかについては、別途確認しなければなりません。
医療広告規制は、医療機関だけでなく、広告代理店や媒体側などにも及びます。医療機関が原稿を承認したことだけで、制作・掲載側の確認が不要になるわけではありません。www.mhlw.go.jp
また、確認後に見出しを強めたり、必要な説明を削ったりすると、確認済みの原稿と公開される広告が異なってしまいます。
公開する最終原稿を確認し、公開後に修正する場合の確認担当者も決めておきます。
公開日が迫ったときこそ、未確認事項を明らかにする
公開日が近づくと、「他院でも使っている」「以前も掲載した」「制作会社が大丈夫と言っている」といった事情で、そのまま進めたくなることがあります。
しかし、それだけで今回の広告を掲載できるとは判断できません。
確認が残っている箇所を明らかにし、誰が、いつまでに確認するかを決める。そのうえで、掲載する、表現を修正する、確認が済むまで掲載を見送る、といった対応を選びます。
早い段階で疑問点を拾えば、表現の変更や資料の追加にも対応できます。公開直前まで確認を残すと、修正の時間がなくなり、選択肢が狭まります。
医療広告でも、最初に何を確認し、何を未確認のまま進めないかが、その後の対応を左右します。
行政から指摘を受けた場合
行政から広告について指摘を受けたときは、指摘の内容、対象となる表示、回答や修正の期限を確認します。
そのうえで、同じ表現を使っている別のページや広告がないか、制作途中の原稿にも残っていないかを調べます。
該当箇所の修正で足りるのか。表示の根拠資料を確認する必要があるのか。制作側との確認手順まで見直す必要があるのか。
指摘を受けた事実と、その原因、必要な対応を分けて整理することが大切です。
弁護士への相談で整理すること
医療広告の相談では、原稿だけでなく、掲載予定の媒体、画面や誌面の構成、表示の根拠資料、公開予定日、制作側との役割分担を確認します。既に指摘を受けている場合には、その文書や対応経過も確認の対象になります。
そのうえで、法的な確認が必要な事項、医療機関で事実を確認する事項、制作側に修正を求める事項を整理します。
掲載できない表現がある場合にも、何を伝えたかったのかに立ち戻ることで、事実に即した別の伝え方を検討できることがあります。
当事務所では、具体的な原稿と資料をもとに、何を確認し、どこを修正し、いつ判断する必要があるかを整理します。規制の説明を、実際の掲載や修正の判断につなげるためです。
※本稿は、2019年作成の説明書を素材に、現在の実務上の考え方を整理したものです。制度に関する記述は、2026年10月22日時点で確認した厚生労働省の医療広告等ガイドライン・Q&Aを参照しています。
当事務所では、
目の前の法的正解だけではなく、
初動・情報整理・損失配分・将来維持可能性を含めた現実判断を重視しています。
実際の紛争や経営判断では、初動で何を整理し、何を守り、何を優先するかという判断が、その後の結果を大きく左右します。
そのため、法律的な見通しをご説明するだけでなく、状況や選択肢を整理し、依頼者の方が納得して判断できるよう支援することを大切にしています。
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