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第49回 解雇は要注意。深手を負う前に弁護士に相談を

月刊「財界さっぽろ」2015年11月取材

会社を守る法律講座

今回は会社経営者A氏から受けた従業員の解雇に関する相談を紹介します。以下、談話です。

 

A氏 前田先生、いよいよA君を解雇することにしましたよ。

前田 えっ、聞いてませんよ。

A氏 能力不足で勤務態度の悪い従業員は解雇して当然でしょう。

前田 そんな簡単な話ではありません。「病気で元の業務を遂行できなくとも配置可能な業務を検討すべき」とか「労働能力が平均的な水準に達していないだけでは不十分であり、著しく劣り、かつ向上の見込みがないという場合でなければならない」などとして解雇を無効とした裁判例は珍しくありません。A社長のような理由で解雇する場合のハードルは極めて高いのです。

また、出張旅費の着服で懲戒解雇された従業員からの退職金の支払い請求に対し、約540万円の支払いを認めた事例もあります(札幌地裁平成20年5月19日判決)。経営者としては、裁判所の判断は複雑怪奇でしょうが、現実として受け止めなければなりません。

A氏 では、従業員に退職願を提出させる「退職勧奨」の方法はどうでしょう。

前田 誰もが思い付く方法は失敗も多いのです。現に、町立病院に勤務する臨床検査技師の退職の意思表示の撤回が有効であるとされた事例もあります(旭川地裁平成25年9月17日判決)。

労使問題では、日本マクドナルド事件の「管理監督者制度」は、残業手当て対策として採用されたのに失敗した例として有名ですが、道内でも「固定残業手当制度」についてのザ・ウィンザー・ホテルズ インターナショナル事件(札幌高裁平成24年10月19日判決)があります。一見お手軽な便法が失敗する例が少なくないのです。

A氏 持久戦をするほかないのでしょうか。

前田 いいえ。例えば、社員に自主退職をさせるよう仕向ける、いわば軟禁室を「パソナルーム」と呼びますが、一人だけ別室に配置され、会議や忘年会などにも呼ばれず、1日100件の飛び込みによる新規顧客開拓をノルマとされていた事案で、150万円の慰謝料が認められた事例もあります(大阪地裁平成27年4月24日判決、大和証券・日の出証券事件)。

A氏 手立てはないのですか。

前田 道内の失敗例を紹介してきましたが、実は有利不利を問わず、ルール化するのは難しいのが実情です。「お手軽本」などに簡潔に紹介された判例などに飛びつくのは危険この上ないのです。

法律、裁判は経営者の考えとはギャップがあるという厳然たる事実を受け入れ、個別具体的に考え抜いて対応することが重要です。そもそも、労働契約書や就業規則など基本的な事柄において、初歩的な不備があることも多いのです。

 

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
ただ、私独自の強みを生かすことを、増員・規模拡大によって実現することに限界を感じています。今は、依頼者と自ら対座して、依頼者にとっての「勝ち」が何なのかにこだわりながら、最善の解決を実現を目ざす体制の構築に注力しています。実践面では、見えないところの力学活用と心理戦について蓄積があると自負しています。

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