株主間の対立が、役員、従業員、取引先、金融機関を巻き込み始めると、会社支配権の問題は事業継続の問題へ変わります。どちらが正しいかを争う前に、株主間の争いと会社運営を切り分け、会社の信用・資金・情報を守る必要があります。
株主同士の対立が会社全体へ広がったら
株主同士の意見が合わない。
役員人事や経営方針をめぐって対立している。
当初は株主間だけの問題だったはずが、やがて役員、従業員、取引先、金融機関まで巻き込み始めることがあります。
例えば、
- 役員が双方に分かれた
- 従業員がどちらの指示に従うべきか分からない
- 会社印、通帳、会計資料の管理をめぐって争いが起きた
- 社内システムへのアクセスが一方的に制限された
- 取引先に双方から異なる説明がされた
- 金融機関が代表者や返済体制に不安を持ち始めた
- 株主間の非難が社内や社外へ広がった
という状況です。
ここまで来ると、問題は、どちらの株主が会社を支配するかだけではありません。
会社が通常どおり事業を続けられるかという問題になっています。
株主間の争いと会社の利益は同じではありません
非上場会社、特に同族会社では、株主と会社が一体のように扱われることがあります。
しかし、会社は、一方の株主が相手方と争うための道具ではありません。
株主にはそれぞれ自分の権利と利害があります。一方、取締役は、会社の立場で会社業務を行わなければなりません。
そのため、
- 会社の資金を一方の株主だけの利益のために使う
- 会社名義で相手株主を攻撃する
- 会社の情報を株主間の私的な争いに利用する
- 相手方についた従業員を直ちに不利益に扱う
- 会社の取引を相手方への圧力として止める
といった行動は、会社のための行動なのか、一方当事者のための行動なのかが問題になります。
株主としての立場と、取締役・代表取締役としての立場を分けて考える必要があります。
まず、対立がどこまで広がっているかを確認する
株主間の対立が会社へ波及した場合、最初に、その範囲を確認します。
役員への波及
取締役が双方の陣営に分かれ、取締役会で必要な決定ができなくなっていないか。
代表取締役の地位や権限について、異なる主張がされていないか。
従業員への波及
従業員に異なる指示が出されていないか。
どちらを支持するのか、事実上の選択を迫られていないか。
人事、給与、勤怠、業務命令に混乱が生じていないか。
資金への波及
会社印、預金通帳、インターネットバンキング、会計データを誰が管理しているか。
給与、税金、仕入代金、借入金の返済が予定どおり行えるか。
取引先・金融機関への波及
双方が別々の説明をしていないか。
契約の有効性、発注権限、支払権限について疑問を持たれていないか。
情報への波及
メール、サーバー、顧客情報、会計資料へのアクセスが一方的に変更されていないか。
重要な記録が削除されたり、所在不明になったりしていないか。
対立の中心だけを見るのではなく、会社のどの機能に影響が出ているのかを確認します。
会社の意思決定経路を確認する
株主同士が対立していても、会社としての意思決定は続けなければなりません。
そこで、
- 現在の代表取締役は誰か
- 取締役会を適法に開催できるか
- どの取締役がどの権限を持っているか
- 株主総会を誰が招集できるか
- 会社印や預金を使用する権限は誰にあるか
- 日常業務について誰の指示が有効なのか
を確認します。
対立当事者双方が、自分こそ正当な経営者であると主張する場合もあります。
しかし、声の大きさや社内での影響力だけでは決まりません。
定款、登記、株主総会・取締役会の決議、役員の任期、会社の機関設計を確認し、現在の法的状態を整理する必要があります。
事業を止めないための優先順位を決める
対立が会社全体へ広がった場合、すべての問題を同時に解決することは困難です。
まず、会社の運転を維持するために必要なものを優先します。
例えば、
- 従業員の給与
- 税金や社会保険料
- 仕入代金や外注費
- 借入金の返済
- 重要な契約の履行
- 顧客へのサービス提供
- 許認可の維持
- 会計・労務手続
- 会社情報と顧客情報の保全
です。
経営権の帰属について最終的な結論が出るまで、相当の時間を要することがあります。
その間に会社の信用、顧客、従業員が失われれば、最終的に経営権を得ても、会社の価値が大きく低下している可能性があります。
誰が勝つかという問題と、会社を止めないという問題を分けて対応する必要があります。
従業員に陣営を選ばせない
株主や役員が対立すると、双方が従業員に事情を説明し、自分への支持を求めることがあります。
しかし、従業員にとって重要なのは、会社が存続し、仕事と給与が維持されることです。
従業員を情報収集や相手方への圧力に利用すると、
- 職場内に派閥ができる
- 通常業務が停滞する
- 退職者が出る
- 顧客情報や営業情報が分散する
- 対立後も社内の不信感が残る
といった問題が生じます。
また、相手方と話をした、相手方の指示に従ったという理由だけで、従業員に不利益な取扱いをすることにも慎重でなければなりません。
従業員に対しては、必要な範囲で会社の正式な指示系統を示し、私的な対立への参加を求めないことが重要です。
取引先や金融機関への説明を統制する
株主同士が、それぞれ取引先や金融機関に連絡し、相手方を非難すると、会社の信用そのものが損なわれます。
外部から見れば、
「誰が正式な代表者なのか」
「契約や発注は有効なのか」
「支払いは予定どおり行われるのか」
「この会社と取引を続けて大丈夫なのか」
という不安が生じます。
外部への説明が必要な場合には、
- 誰が説明するのか
- どの事実まで説明するのか
- 会社として何を約束できるのか
- 未確定の事項をどのように扱うのか
を整理する必要があります。
相手方を不利にするための説明と、会社の信用を維持するための説明を混同しないことが重要です。
会社の資金・印鑑・情報を私物化しない
対立が激しくなると、
- 会社印を別の場所へ移す
- 通帳を確保する
- インターネットバンキングの権限を変更する
- 社内システムのパスワードを変更する
- 会計資料や契約書を持ち出す
- 相手方のメールを閲覧する
- データを削除する
といった行動が起こることがあります。
会社財産や情報を守る必要がある場合もありますが、誰が、どの権限に基づいて、何の目的で行ったのかが問題になります。
相手より先に確保すればよいとは限りません。
会社の事業継続に必要なアクセスまで遮断すれば、会社自身に損害を与えることがあります。
現在の権限関係を確認し、会社の運転を維持しながら、必要な証拠や情報を適法に保全する必要があります。
会社の費用でどこまで争うのか
会社支配権の争いでは、会社名義で弁護士へ依頼したり、会社の資金から費用を支出したりすることがあります。
しかし、その依頼や支出が、
- 会社の利益を守るためのものか
- 現経営陣個人の地位を守るためのものか
- 一方の株主が他方の株主と争うためのものか
を区別しなければなりません。
会社と取締役個人、株主個人の利害が一致しない場合もあります。
誰が依頼者となるのか、誰の利益を守るのか、誰が費用を負担するのかを曖昧にしたまま進めると、新たな紛争を生む可能性があります。
法的手続に進む前に、時間軸を整理する
株主間の対立が会社全体へ広がると、株主総会、取締役会、訴訟、仮処分などの手続が検討されます。
しかし、法的に可能な手続を直ちに始めればよいとは限りません。
まず、
- 次の株主総会・取締役会はいつか
- 役員の任期満了はいつか
- 給与や大口支払いはいつか
- 借入金の返済日はいつか
- 重要な契約の更新期限はいつか
- 会社の資金はどの程度維持できるか
- 法的手続の結果を待てる状態か
を確認します。
法的に正しい手段であっても、結論が出る前に会社が資金不足や信用低下に陥れば、実際の目的を達成できないことがあります。
法律上の時間と、会社経営の時間を重ねて考える必要があります。
出口は「どちらかを排除すること」だけではありません
株主間の対立が深まると、双方とも、相手方を会社から完全に排除することを目標にしがちです。
しかし、現実的な出口としては、
- 役割と権限を明確にして共同経営を続ける
- 事業部門や担当領域を分ける
- 第三者役員を加えて意思決定を安定させる
- 一方が役員を退き、株主として残る
- 一方が他方の株式を買い取る
- 事業や資産を整理して分離する
- 第三者への事業承継や会社売却を検討する
ことも考えられます。
どの方法が適切かは、議決権の数だけでは決まりません。
事業の分離可能性、資金調達、株価、個人保証、税務、従業員、取引先への影響まで検討する必要があります。
最初に整理しておきたい資料
株主間の対立が会社全体へ広がった場合には、少なくとも次の資料を確認します。
- 定款
- 登記事項証明書
- 株主名簿
- 株式の取得、譲渡、相続に関する資料
- 株主総会・取締役会の議事録
- 役員の任期が分かる資料
- 株主間契約や過去の合意書
- 会社印、預金、会計システムの管理状況
- 借入金、個人保証、会社への貸付金に関する資料
- 主要な取引契約
- 対立の経緯が分かるメールや文書
併せて、対立がいつ、株主から役員、従業員、取引先へ広がったのかを時系列で整理します。
当事務所の考え方
株主同士の対立が会社全体へ広がった場合、株主間の勝敗だけを考えても十分ではありません。
まず、
- 株主としての争い
- 取締役・代表取締役としての権限
- 会社として守るべき利益
- 従業員、取引先、金融機関への影響
- 資金、情報、会社機能の維持
- 最終的な紛争の出口
を分けて整理する必要があります。
会社支配権を獲得しても、その過程で会社の事業や信用を失えば、守ろうとしたもの自体が残りません。
当事務所では、目の前の法的正解だけではなく、初動、情報整理、時間、会社の運転、損失配分、将来維持可能性まで含めた現実的な判断を重視しています。
誰が会社を支配するのかを考えると同時に、争いの間も、誰が会社を動かし続けるのかを決めることが「最初の判断」になります。
当事務所では、
目の前の法的正解だけではなく、
初動・情報整理・損失配分・将来維持可能性を含めた現実判断を重視しています。
実際の紛争や経営判断では、初動で何を整理し、何を守り、何を優先するかという判断が、その後の結果を大きく左右します。
そのため、法律的な見通しをご説明するだけでなく、状況や選択肢を整理し、依頼者の方が納得して判断できるよう支援することを大切にしています。
会社支配権について、ほかの質問を確認する
関連記事
会社支配権をめぐる、そのほかの具体的な局面について整理しています。
役員や株主の動きに違和感があるものの、まだ会社全体へ対立が広がっていない場合はこちらをご覧ください。
▶ 経営権争いになりそうだと感じたら|対立が表面化する前に確認したいこと
株主構成、役員構成、定款、会社内の力関係を整理する際の入口です。
▶ 会社の経営権を巡る対立が起きたとき、最初に整理したいこと
株式、役員、経営、親族関係などが、会社支配権の問題としてどのように結びつくのかを解説しています。






