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社外取締役という「制度信仰」の崩壊|仕組みを整えても、最後に残る「誰が決めるか」

社外取締役を増やし、指名・報酬委員会を設け、取締役会の実効性を評価する。
こうした制度を整えれば、企業は自然に正しい方向へ進むのでしょうか。

東証による制度改革が重ねられる一方、アクティビストによる株主提案、同意なき買収、MBOや非公開化をめぐる対立は激しさを増しています。

崩れたのは、社外取締役制度そのものではありません。制度を整えれば、企業統治の問題は解決するという「制度信仰」です。制度の先には、結局、「誰が、何を守り、どの結果を引き受けて決めるのか」という問題が残ります。

社外取締役を置けば、企業統治は完成するのか

社外取締役制度が広がった時代

2021年3月、令和元年改正会社法が施行され、一定の上場会社等について、社外取締役を置くことが義務付けられました。

もっとも、法改正より前から、多くの上場会社は既に社外取締役を選任していました。

その背景には、会社法だけでなく、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード、機関投資家の議決権行使方針、議決権行使助言会社の影響などがありました。

当時、社外取締役には、業務執行者から独立した立場で経営を監督し、経営者や支配株主と少数株主との利益相反を監視することが期待されていました。

当事務所でも、法改正当時、

  • 社外取締役は人選が重要である
  • 著名人を並べるだけの取締役会では意味がない
  • 弁護士が社外取締役に就任することで、コンプライアンスや有事対応に役立つ
  • 中小企業でも、経営者の相談相手・批判者として外部人材を活用できる

という趣旨の記事を掲載しました。

この基本的な考え方は、現在も誤ってはいません。

しかし、その後の制度改革と企業社会の動きを見ると、「社外取締役を置く意義」を説明するだけでは、現在起きている問題を十分に捉えられなくなっています。

人数を増やせば、取締役会は機能するのか

2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、プライム市場上場会社について、独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任することが求められました。

必要な場合には、独立社外取締役を過半数とすることも検討すべきであるとされています。

さらに、

  • 独立社外取締役を中心とする指名委員会・報酬委員会
  • 取締役に必要な知識や経験を示すスキル・マトリックス
  • 取締役会全体の実効性評価
  • 投資家との対話
  • 資本コストや株価を意識した経営
  • 政策保有株式や事業ポートフォリオの見直し

など、次々に新しい仕組みが求められるようになりました。

2026年7月には、成長投資の促進と取締役会の機能強化を軸とするコーポレートガバナンス・コードの改訂版も確定しています。

制度は、確実に精密になっています。

しかし、制度が精密になることと、取締役会が実際に機能することは同じではありません。

社外取締役の人数を増やし、委員会を設置し、スキル・マトリックスの該当欄に丸を付け、毎年アンケートによる実効性評価を行っても、肝心な局面で実質的な議論がなされなければ、企業統治が機能しているとはいえません。

金融庁の会議でも、独立社外取締役の選任や指名・報酬委員会の設置という形式面では進展した一方、それぞれの果たすべき役割について認識が共有されず、取締役会が十分に機能していないとの問題が指摘されています。

「社外取締役がいる」という事実は、もはや企業統治の実効性を当然に保証するものではありません。

ニデックで起きたこと――制度は整っていた

社外取締役制度の限界を考えるうえで、ニデックで起きた問題は示唆的です。

ニデックは、社外取締役比率50%以上を維持し、第三者機関による取締役会の実効性評価を行い、指名・報酬委員会の実効性向上を掲げるなど、形式上はコーポレートガバナンス改革を積極的に進めていました。

しかし、2025年には、海外子会社などにおける会計処理上の問題が相次いで判明しました。有価証券報告書には監査法人による意見不表明の監査報告書が付され、同年10月、ニデック株式は東京証券取引所から特別注意銘柄に指定されました。

創業者である永守重信氏は、同年12月、代表取締役と取締役を辞任し、翌2026年2月には名誉会長も辞任しました。

第三者委員会は、その後、グループ内の多岐にわたる拠点で多数の会計不正があったこと、その根本原因に過度な業績プレッシャーなどがあったことを指摘しています。

もちろん、これだけで個々の社外取締役について法的責任や具体的な任務懈怠があったと断定することはできません。現旧役員の法的責任については、会社が設置した役員責任調査委員会による調査も必要になります。

しかし、企業統治の制度を考えるうえでは、既に重要な問いが生じています。

社外取締役の人数を増やし、委員会を設置し、取締役会の実効性評価を続けていても、なぜ、グループ内に広がる問題を早期に発見し、制動することができなかったのでしょうか。

問題は、社外取締役が何人いたかだけではありません。

社外取締役が、どのような情報を受け取り、創業者や執行部門に対してどこまで独立した検討を行い、必要な局面で異論を述べることができたのかです。

強い創業者が会社を急速に成長させてきた企業では、創業者の判断力そのものが、会社の重要な経営資源となります。

その一方で、成功した創業者の強い判断が長く続くほど、社内では異論を述べにくくなり、取締役会もまた、その判断を追認する場となる危険があります。

社外取締役制度は、本来、そのような経営権力に対する制動として期待されたはずです。

それでも制動が働かなかったとすれば、問われるべきなのは、制度が存在したかどうかではなく、その制度が実際の権限・情報・人事・評価の構造の中で機能していたかどうかです。

ニデックの事例は、社外取締役制度が不要であることを示すものではありません。

むしろ、社外取締役という肩書、人数、委員会、実効性評価を整えただけで、企業統治が実現したと考えることの危うさを示しています。

崩れたのは制度ではなく、「制度信仰」である

ここでいう「制度信仰の崩壊」とは、社外取締役制度が不要になったという意味ではありません。

崩れたのは、

社外取締役を増やし、委員会と評価制度を整えれば、企業は自然に正しい方向へ進む

という期待です。

社外取締役という制度を設けても、その社外取締役が、

  • 誰によって候補者に選ばれたのか
  • 誰から情報の提供を受けているのか
  • 会社の事業をどこまで理解しているのか
  • 経営者に対して異論を述べることができるのか
  • 機関投資家や市場の評価からも距離を取れるのか
  • 再任や報酬を意識せずに判断できるのか
  • 有事に結果責任を伴う意見を述べられるのか

によって、実際に果たす役割は大きく異なります。

形式上は経営者から独立していても、市場の一般的な評価基準や議決権行使助言会社の方針に追随するだけなら、会社の具体的事情に即した独立した判断をしたとは限りません。

反対に、経営者との関係を重視するあまり、経営者の判断を追認するだけであれば、そもそも社外取締役を置いた意味が問われます。

「独立性」は、肩書や形式的な資格だけでは決まりません。

誰からも距離を取りながら、必要な情報を集め、会社の置かれた状況を理解し、具体的な局面で意見を述べられるかという実質の問題です。

アクティビストの台頭が露出させたもの

近年、アクティビストと呼ばれる「物言う株主」の活動が活発になっています。

アクティビストは、株主還元の拡大、現預金の活用、政策保有株式の売却、不採算事業の整理、経営陣の交代などを求めます。

その主張が、経営者の保身、遊休資産の放置、低収益事業の温存などを明らかにし、企業価値の改善につながる場合もあります。

したがって、アクティビストを一律に、会社を混乱させる存在と見ることは適切ではありません。

しかし、資本効率や株価を強く意識する市場の論理と、

  • 長期的な研究開発
  • 従業員の雇用
  • 取引先との関係
  • 地域社会での役割
  • 企業文化や技術の承継
  • 将来の不測の事態に備えた資金の確保

といった事業継続の論理が、常に一致するわけでもありません。

問題は、アクティビストと現経営陣のどちらが正義かではありません。

それぞれが異なる時間軸と利益を前提に、「企業価値」という同じ言葉を使っている可能性があります。

その間に立つ社外取締役には、単なる法令違反の監視者ではなく、会社が何を守り、何を変え、どの損失を受け入れるのかを判断することが求められます。

同意なき買収、MBO、非公開化、事業売却、経営者の交代などの場面では、この問題が一挙に表面化します。

平時には穏やかに進んでいた取締役会でも、会社の支配権や将来を左右する局面になると、

  • 現経営陣の経営継続を支持するのか
  • 買収提案を受け入れるのか
  • 株主に判断を委ねるのか
  • どの情報を開示するのか
  • 誰の意見を独立した専門意見として採用するのか

を決めなければなりません。

制度の有無ではなく、判断の中身が問われる段階です。

社外取締役は「判断主体」の代わりにはならない

社外取締役は、経営者の判断を代わりに行ってくれる装置ではありません。

社外取締役を増やすことで意見は増えます。専門家、投資家、アドバイザーから得られる情報も増えます。

しかし、情報や意見が増えることと、会社として決断できることは同じではありません。

会社の進路を決めるには、

  1. 会社を取り巻く全体像を把握する
  2. 何を守るのかを定める
  3. 現実に選択できる手段を整理する
  4. 各選択肢によって生じる損失を比較する
  5. 最後に、誰が結果を引き受けて決めるのかを明らかにする

という工程が必要です。

ところが、制度を整えることに重点が置かれすぎると、「誰が決めるのか」がかえって見えにくくなることがあります。

経営者は「社外取締役の意見を踏まえた」といい、社外取締役は「執行側から提供された情報に基づいて判断した」といい、専門家は「選択肢とリスクを説明した」といいます。

全員が所定の役割を果たしたように見えながら、誰も最終的な結果責任を引き受けていない。

これが、制度を積み重ねるだけでは解決できない問題です。

企業統治の核心は、制度の数ではありません。

誰が判断主体であり、何を守るために、どの結果を引き受けて決めるのか。

この点が曖昧なままでは、どれほど精密な仕組みをつくっても、企業統治は完成しません。

上場会社の問題は、中小・非上場会社にも存在する

社外取締役やアクティビストをめぐる議論は、上場会社だけの特殊な問題に見えるかもしれません。

しかし、同じ構造は、中小企業や非上場会社にもあります。

上場会社におけるアクティビストと経営陣の対立は、非上場会社では、少数株主と支配株主・経営者との対立として現れます。

同意なき買収やTOBをめぐる問題は、非上場会社では、株式の取得、後継者への承継、共同経営者の離脱などをめぐる会社支配権問題として現れます。

指名・報酬委員会が扱う問題は、親族経営の会社では、後継社長の選定、取締役の解任、役員報酬をめぐる親族間対立として現れます。

市場価格が存在しない非上場会社では、株式の価値についてさえ、少数株主、経営者、税務専門家、株式評価の専門家の見方が一致するとは限りません。

中小企業でも、外部取締役、顧問弁護士、税理士、金融機関など、経営者の外側に多くの助言者がいます。

しかし、助言者を増やすことと、経営者が適切に判断できることは別の問題です。

相談相手がいないことは危険ですが、相談相手が増えすぎ、判断主体が外部へ移ってしまうことも危険です。

外部専門家に求められるのは、経営者の代わりに会社を支配することでも、一般論としてリスクを並べることでもありません。

会社が置かれた現実を整理し、経営者や株主が自ら判断できる状態を回復させることです。

制度の先にある、実際の判断を支援する

法制度は重要です。

社外取締役による監督も、少数株主の保護も、投資家との対話も必要です。

しかし、制度は、会社が直面する具体的な問題について、唯一の正解を与えてくれるものではありません。

会社を売却するのか、事業を続けるのか。
現経営陣を維持するのか、交代させるのか。
株主への還元を優先するのか、将来の投資に資金を残すのか。
親族関係を維持するのか、会社支配権を確定させるのか。

こうした問題では、いずれの選択にも利益と損失があります。

必要なのは、制度の看板を掲げることではなく、

全体像を把握し、守るものを定め、選択肢を比較し、実行に移すこと

です。

社外取締役という「制度信仰」が崩れた後に残るのは、制度を超えた抽象論ではありません。

具体的な局面で、誰が、何を守り、どう動くのかという、企業経営の最も現実的な問題です。

前田尚一法律事務所では、会社支配権、少数株主・非上場株式、役員・経営者間の対立などについて、法律関係だけを切り取るのではなく、会社の現状、株主関係、事業の継続可能性、交渉や訴訟に進んだ場合の影響まで整理し、依頼者が判断主体として決断できるよう支援しています。

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
弁護士として35年以上の経験と実績を有し、これまでに多様な訴訟に携わってまいりました。顧問弁護士としては、常時30社を超える企業のサポートを直接担当しております。
依頼者一人ひとりの本当の「勝ち」を見極めることにこだわり、長年の経験と実践に基づく独自の強みを最大限に活かせる、少数精鋭の体制づくりに注力しています。特に、表面に見えない企業間の力学や交渉の心理的駆け引きといった実務経験は豊富です。 北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校、北海道大学法学部卒業。

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