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80歳で「こんなに稼げるとは」――67歳の弁護士が考える、これからの働き方

 

林真理子氏の著書に、80歳の弁護士が「80になってこんなに稼げるとは思わなかった」と語った短い逸話があります。

67歳になった弁護士として、この言葉には妙な実感があります。

年齢を重ねてから問われるのは、いつ仕事をやめるかだけではなく、何を残し、どのように働くかではないでしょうか。

仕事をやめるのではなく、仕事の仕方を変えていく

80歳の弁護士が語った一言

林真理子氏は、著書『80代になるとたいていボケるか死ぬ。70代は神様から与えられた特別な時間』の中で、親しい弁護士との短いやり取りを紹介しています。

その弁護士は、林氏にしみじみと言ったそうです。

「いやあー、80になってこんなに稼げるとは思わなかったねー」

林氏は、これに続けて、自分も80歳になったらそうなってみたいと記しています。

この弁護士の実名は明らかにされていません。したがって、誰の発言なのかを詮索する必要はないでしょう。

私が引かれたのは、むしろ、この一言に含まれている実感です。

「稼げる」という言葉をきれいごとで避けない

弁護士の仕事について語るとき、「社会貢献」や「使命」という言葉はよく使われます。もちろん、それらは大切です。

しかし、仕事である以上、依頼を受け、責任を負い、その対価を得るという現実があります。

「80歳になっても社会の役に立てた」というだけでなく、「80歳でこんなに稼げるとは思わなかった」と率直に語るところに、この言葉の面白さがあります。

相応の対価が支払われるということは、少なくとも誰かが、その仕事にそれだけの価値を認めたということでもあります。

お金がすべてではありません。しかし、仕事の価値と収入とを、ことさらに切り離して語る必要もないと思います。

私も67歳になりました

私は平成元年に弁護士登録をし、既に35年以上が経ちました。

若い頃と同じように、依頼された案件をできるだけ多く受け、長時間働き続けることがよいとは考えていません。健康や体力を考えれば、今後、仕事の量や進め方を変えていく必要もあります。

それでも、弁護士としての仕事そのものを、直ちに手放したいとは思いません。

実際、複雑な事件に向き合うと、若い頃には見えなかったものが見えることがあります。

表面に現れた法的争点だけでなく、その背後にある利害関係、当事者の感情、組織内部の力関係、相手方の次の動き、裁判になった場合の見通しまでを、一つの構造として捉えられるようになるからです。

これは、知識を長く持っているというだけではありません。

数多くの事件で判断し、その結果を見て、ときには判断を誤り、そこから修正してきた経験の蓄積です。

年齢とともに、減らす仕事と残す仕事

年齢を重ねた弁護士が考えるべきなのは、単純に仕事を続けるか、やめるかという二者択一ではないでしょう。

減らした方がよい仕事はあります。

件数をこなすこと自体が目的となる仕事、過度に消耗する仕事、経験をほとんど生かせない仕事です。

一方で、残すべき仕事もあります。

何を争点とするかを見定める仕事、複数の選択肢から進む方向を決める仕事、交渉と訴訟のどちらを選ぶかを判断する仕事、そして、依頼者がまだ言葉にできていない問題の構造を整理する仕事です。

私がこれからも担いたいのは、後者です。

仕事の数を追うのではなく、判断を求められる場面で役割を果たす。年齢を重ねるほど、弁護士としての比重を、そこへ移していくことになると思います。

仕事を続けることは、社会との接点を残すことでもある

仕事には、収入以外の意味もあります。

依頼者の話を聞き、事実を調べ、相手方の主張を読み、文章を組み立て、最終的な判断をする。この過程には、相当な緊張があります。

その緊張は、ときに負担です。しかし同時に、思考を止めず、社会との接点を失わないための力にもなります。

仕事から完全に解放されることだけが、年齢を重ねた後の自由ではありません。

自分が引き受ける仕事を選び、時間の使い方を自分で決め、それでも必要とされる局面では責任を負う。そのような働き方も、自由の一つでしょう。

80歳のとき、何をしているか

私が80歳まで弁護士業務をしているかどうかは分かりません。

ただ、「もう年だから」と年齢だけで区切るよりも、その時点で何ができるか、どの仕事なら価値を提供できるかを考えたいと思っています。

80歳の弁護士の「こんなに稼げるとは思わなかった」という言葉は、単なる収入の話ではないのでしょう。

そこには、まだ自分の仕事を必要とする人がいたことへの、率直な驚きと喜びが含まれているように思えます。

年齢とともに、仕事の量は変わる。

しかし、蓄積した経験を判断に変えることができる限り、仕事の価値まで同じように小さくなるとは限りません。

私自身も、何でも引き受けるのではなく、何を守り、どう動くかという判断を求められる仕事を続けていきたいと考えています。

それが、現在の私なりの判断の原則であり、これからの弁護士としての働き方です。

【参考】

林真理子『80代になるとたいていボケるか死ぬ。70代は神様から与えられた特別な時間』(幻冬舎新書)

年収半減の林真理子に「日大理事長になって損しましたね」――ダイヤモンド・オンライン

 

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前田 尚一(まえだ しょういち)
弁護士として35年以上の経験と実績を有し、これまでに多様な訴訟に携わってまいりました。顧問弁護士としては、常時30社を超える企業のサポートを直接担当しております。
依頼者一人ひとりの本当の「勝ち」を見極めることにこだわり、長年の経験と実践に基づく独自の強みを最大限に活かせる、少数精鋭の体制づくりに注力しています。特に、表面に見えない企業間の力学や交渉の心理的駆け引きといった実務経験は豊富です。 北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校、北海道大学法学部卒業。

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